第39回人工知能学会全国大会(JSAI2025)参加レポート

こんにちは、AIソリューションチームの大沢直史です。

昨年に引き続き、電通総研は人工知能学会全国大会(第39回)(以下、JSAI)に参加しました。弊社のスポンサー出展は今年で4年目となります。プラチナスポンサーとして、AITCと製造事業部のEngineering AIチームとの合同による電通総研の企業ブースを出展しました。

AITCは採用活動に非常に力を入れており、JSAIへの参加目的としては、我々の取り組みをブースや発表を通じて広く知っていただき、学生の皆さんに、就職先の候補としてご検討いただけたらと思っています。また個人的には他社様のAIエージェントの動向と、一般発表でどういった取り組みがなされているのかのキャッチアップを目的として参加しました。

インダストリアルセッションではAITCのAIエージェントに関する取り組みと、Engineering AIの生成AIに関する取り組みについて発表を行いました。

この記事では発表やブース、JSAI全体の様子についてお伝えします。

JSAI2025について

JSAIは日本における人工知能分野の代表的な学術イベントであり、年に一度開催されます。研究者だけでなく、企業の技術者や学生、官公庁の関係者まで、さまざまな立場の人々が集い、最先端のAI技術、社会実装、倫理的課題などについて活発な議論が交わされます。

全国大会では、以下のような多彩なプログラムが展開されます。

  • 口頭発表およびポスター発表(研究成果の共有)
  • 招待講演・チュートリアル(第一線の研究者や実務家による講演)
  • インタラクティブセッション(参加者同士の議論)
  • スポンサーブースや企業展示(産業界との接点)

本年度はグランキューブ大阪(大阪府立国際会議場)で、5月27日(火)から5月30日(金)までの4日間行われました。大阪は万博会場になっていることもあり、JSAI会場に着くまでにあちこちで万博に関連するバスやイラスト、ミャクミャクを見たのが印象的でした。JSAIのセッションにも今年は万博セッションがあり、例年と違い特徴的な大会だったと思います。

本年度は参加者が過去最大の5,000人に迫る人数で、近年の生成AIブームを受けた関心の高まりが如実に表れているなと感じました。
(以下はYoji Kiyota (清田陽司)様のXに投稿されたJSAI参加者人数の推移です。)

ブースの様子

企業ブースでは電通総研のEngineering AIチームとAITCが合同で出展し、それぞれの研究成果や取り組んでいる技術について紹介しました。

AITCの紹介ポスター

AITCはエンタープライズ生成AI活用ソリューション:Know Narratorを開発しています。Know NarratorシリーズはChat with Vision(対話型生成AI)、Insight(チャット履歴分析)、Search(エンタープライズRAG)の3つのソリューションからなり、お客様のニーズに合わせて選択することができます。また、Know Narrator APIによって、お客様独自のシステムにKnow Narratorの機能を組み込むことができます。

また本年よりKnow Narrator AgentSourcingの提供を開始しました。Know Narrator AgentSourcingは、人間に代わって自律的に業務を行う様々なユースケースに特化したAIエージェントが動作するプラットフォームです。詳細は以下をご確認ください。

Engineering AIの紹介ポスター

Engineering AIでは、サロゲートモデルや3次元モデル形状生成AI、それらを組み合わせたGenerative Designというシステムを提案しています。

Generative Designでは、設計仕様を入力するとAIが複数の設計案を自動生成し、最適な設計を提案します。これにより、従来の最適化よりも広範な設計オプションを提供し、迅速な評価と探索を可能にします。

Engineering AIはその他にも様々なソリューションを提供しています。

ブースには企業の方やインダストリアルセッションを聞いてくださった方、学生の方など非常に多くの方に来ていただき、AITCの取り組みに興味を持っていただくことが出来ました。

セッション

インダストリアルセッションにて、AITCとEngineering AIチーム合同で発表を行いました。


AITCからは社内でのAIエージェントの技術検証の取り組みを紹介しました。
AIエージェントを構築する前提として、AIエージェントが行う業務に必要な情報は基本的には全てLLMにあらかじめ入力しておく、あるいは取得可能な環境である必要があります。しかしながら現実では多くの場合で「文書化されていない現場知見(=暗黙知)」が存在し、この現場知見を言語化することが非常に難しいといった課題が存在します。そこで我々の取り組みとして、AIエージェントの構成要素である「メモリ」に着目し、AIエージェントを運用していく中で現場担当者のフィードバックを理解・学習し、自己成長をさせる仕組みを検討しました。本発表ではその取り組みを紹介しました。

Engineering AIからは、形状生成AI、類似形状検索AI、自動メッシュAIの取り組みについて紹介を行いました。形状生成AIではSDFを用いた形状生成とDiffusionモデルを用いた2D断面生成、類似形状検索では画像を用いた手法と形状面のつながりで判別する3D形状認識AIの手法、自動メッシュAIでは3D形状認識AIと自動メッシュ機能の組み合わせでの実現についてそれぞれ紹介しました。

発表タイトル:電通総研のAIエージェント開発やエンジニアリング業務へのAI活用紹介
発表者:後藤勇輝、佐野太一

聴講した発表の紹介

大会内でAITCメンバーが聴講した発表内容の中からいくつか面白かった発表を紹介したいと思います。

一般セッション : LLM-as-a-judgeへの事後アノテーションによる人補正

プログラム:https://confit.atlas.jp/guide/event/jsai2025/subject/4L3-OS-38-01/entries

株式会社リクルート様より、LLM-as-a-Judgeによる自動評価と人間による評価の間に乖離があるという課題に対し、評価結果に対して事後的なアノテーションを行うことで人間による評価指標を推定・補正する手法について紹介がありました。
従来、LLMの評価の妥当性や一貫性の確保は重要な課題とされており、本研究ではそうした評価そのものではなく、評価結果に対してアラインメント情報を用いて補正するというアプローチが取られていました。LLMの判断を前提としつつ人間の評価に近づけるための補正を行う視点はユニークで、非常に興味深いと感じました。


大規模言語モデルのジェイルブレイクに対するインコンテキスト防御の役割明記による改良

プログラム:https://confit.atlas.jp/guide/event/jsai2025/subject/3F5-OS-42b-03/tables?cryptoId=

本研究ではLLMに対するジェイルブレイク攻撃の対策として、インコンテキスト防御の1つである役割明記によって、回答品質を維持しつつ高い防御性能を実現することを実験的に示したものです。発表を受けて、これまで以上にロールの使い分けを意識しようと感じました。私個人としてはLLMに対する攻撃についてあまり知見がありませんでしたが、発表が非常にわかりやすく、攻撃とその防御策についてよく理解することが出来ました。


トップダウン手続きの最適化を通じた LLM Agent のプランニング手法

プログラム:JSAI2025/A Planning Method for LLM Agents through Optimization of Top-Down Procedures

パナソニック コネクト株式会社様より、従来の「現在→目標」を逐次積み上げる ボトムアップ推論 が抱える探索空間の爆発や説明性の不足に対し、目標→前提 へ遡るトップダウン型プランニングを LLM Agent に組み込む手法が紹介されました。発表では、積み木パズルや Minecraft といったゴール判定が明確な環境で、サブタスクを木構造に分解しつつ失敗箇所だけを再計画することで、探索ステップ数を削減しサブタスク成功率を大幅に向上できることを実証しています。
今回の結果から、達成基準が客観的に定義できるタスクでは LLM ベースのトップダウンプランニングが有効であり、精度向上に直接つながる という知見が得られました。探索空間を絞り込みながら説明可能な計画を生成できる点は、今後のAI Agentでも重要になると思います。

終わりに

この記事では電通総研がJSAI2025に参加した様子をお伝えしました。
私が企業ブースを見た感想は、「エージェント」というキーワードが非常に多い印象でした。メモリに着目しエージェントの長期運用を見据えた取り組みや、LLM評価に関する取り組みが見られ、運用や安全性といった「どうエージェントを使っていくか」をターゲットにした取り組みが非常に多いなと感じました。一般発表やポスターは比較的例年通りの印象でしたが、それでもLLMを活用したアプローチは着実に増えているような印象を受けました。

私自身電通総研に入社して初めての学会でしたが、現地で多くの取り組みや発表を目にすることができ、非常に良い刺激を受けました。また我々の取り組みに興味を持っていただき、多くの学生さんや企業の方とお話しすることが出来ました。

現在、AITCでは意欲あるメンバーを募集しています。 下記URLから応募できますので、興味のある方はこちらからぜひお願いいたします。

新卒採用:募集要項
中途採用:キャリア採用ページ

執筆
AIソリューションチーム
大沢直史