AIエージェントで図面チェックを自動化する

はじめに

製造業や建設業の現場では、現在も紙やPDFの図面が重要な役割を担っています。図面は価値ある資産である一方、わずかな不備が手戻りや重大な事故を誘発するリスクがあるため、その正確性が厳密に求められます。

「AIで図面チェックができないか」というニーズは以前から高く、AIトランスフォーメーションセンターではその実現を模索し続けてきました。

かつてはAI-OCRや物体検出AIを組み合わせ、読み取った結果をルールベースで判定する手法が主流でした。しかし、当時のAIは文字の位置を特定できても、それが「寸法」なのか「注釈」なのかといった「意味」までは理解できませんでした。

そのため、図面の記載ルールが曖昧な場合や、作成者によって書き方が異なる場合にはシステム化が困難でした。また、物体検出は「描かれているもの」を探す技術であるため、「あるべきものが欠落している(抜け漏れ)」といった事態を検知できないという致命的な課題もありました。

しかし、マルチモーダル生成AIの登場により、この状況は一変しました。マルチモーダル生成AIとは、テキストに加えて画像や音声も同時に処理できるAIを指し、OpenAIのGPT-4o、GoogleのGemini、AnthropicのClaudeなどがその代表です。これらの最新AIは、図面を単なる画像データではなく、文脈を持つ情報として直接読み解くことができます。

マルチモーダル生成AIの登場により、図面に記載された内容を深く「解釈」できるようになったことで、表記のばらつきや抜け漏れの検知も可能となり、今まで出来なかった図面チェックの自動化が夢ではなくなったのです。

本コラムでは、図面記載内容の抜け漏れチェックや2枚の図面の差分比較を例にAIエージェントによる図面チェックの自動化についてご説明します。

AIエージェントに図面チェックをまかせるメリット

AIエージェントに図面チェックを任せる主なメリットは、「精度の向上」「業務の効率化」の2点に集約されます。

まず、人間が避けられない見落としや微細な寸法ミス、不整合などの「ヒューマンエラー」を、AIエージェントは一定のルールに基づき瞬時に、かつ網羅的に抽出します。これにより、手戻り作業や重大な施工ミスを未然に防ぎ、設計品質の底上げが可能です。

次に、膨大な時間を要する目視チェックを自動化することで、技術者はより創造的な設計業務や高度な判断に集中できるようになります。また、個人の経験に依存していたチェック基準が標準化されるため、組織全体の技術レベルが均質化される点も大きな利点です。

導入による3つの大きな変化

項目導入前(手作業)導入後(AI活用)
チェック速度数時間〜数日(規模による)数分〜数十分
品質の安定性担当者の経験・体調に左右される常に一定の基準で全項目を網羅
コスト人件費と修正による手戻り費用初期投資+低廉な運用コスト

具体的な活用シーン

  • 整合性の自動確認: 平面図、立面図、断面図の間で寸法や建具の配置に矛盾がないかを瞬時に照合します。
  • 法規・標準仕様の照査: 建築基準法や社内の設計標準に抵触している箇所(例:手すりの高さ不足、避難距離の超過など)を自動で検知します。
  • 干渉チェック: BIM(3Dモデル)を活用する場合、配管と梁がぶつかるといった物理的な干渉を、着工前に完全に排除できます。

ワークフローへの組み込み例

  1. 設計者が図面をアップロード
  2. AIがエラー箇所をハイライト(赤入れ)したレポートを出力
  3. 設計者が修正し、完成度の高い図面を検図者へ回す

これにより、ベテラン技術者が「単純な書き損じ」の指摘に時間を奪われることがなくなり、より本質的な設計意図の確認に注力できるようになります。

どの程度図面が読めるのか?

それでは、生成AIでどれだけ画像が読めるのか実際にサンプル図面を使って試してみましょう。

サンプルの図面をKnow NarratorのGPT-5.2モデルを使って、書かれている情報を出力してみました。一部を転記します。

プロンプトは以下の通り。

この図面に記載されている内容を書き出してください。
読み取りがあいまいな箇所は、テキストの末尾に★印を付加してください。

以下、生成AIによる読み取り結果です。

以下、図面内の記載内容を書き出します(読み取りがあいまいな箇所は末尾に★)。
タイトルブロック(右下)
• DRAWN / NAME / DATE
• 小松原★ / 11/24/25★
• チェック済み
• ENG APPR
• MGR APPR
• TITLE
• LLM DWG-OCR DEMO★
• Solid Edge
• SIZE
• A3
• DWG NO
• 100A1001Z★
• REV
• 1
• ファイル名
• OCR-DEMO.dft
• UNLESS OTHERWISE SPECIFIED
• 寸法はミリ
• ANGLES ±XX°★
• 2PL ±XXX 3PL ±XXXX★
• SCALE(空欄)★
• WEIGHT(空欄)★

上手く読めていない箇所もあるようです。AI-OCRの場合はConfidence値も取れるので、上手く読み取れているかどうかはConfidence値で閾値を決めることが出来ました。
生成AIの場合は、

読み取りがあいまいな箇所は、テキストの末尾に★印を付加してください。

というようなプロンプトを加えると、★印のついた箇所は目視チェックをするというような運用も可能でしょう。
上記のケースでは、図面に書かれている文字を読み取り、ブロック毎に整理して出力するところまでを行いましたが、マルチモーダル生成AIなら読み取りと同時に書かれている内容をチェックしていくことも出来ます。

また、図面に書かれた文字だけでなく図面記号も学習しているので、公差指示のチェックなども可能です。

正解は上から

1. 真直度

2. 平面度

3. 真円度

4. 円筒度

5. 線の輪郭度

6. 面の輪郭度

となります

上の記号をGPT-5.2モデルで解説させた結果は、以下の通り全て正解しています。

画像の上から順に、JIS(幾何公差)で用いる代表的な公差記号は次のとおりです。
1. 直線度(Straightness)
対象の線(軸・母線など)が、理想的な直線からどれだけずれてよいかを規定します。

2. 平面度(Flatness)
対象の面が、理想的な平面からどれだけうねり・反りを許すかを規定します。

3. 真円度/円形度(Roundness/Circularity)
断面の円が、理想的な円からどれだけ歪んでよいかを規定します(中心や基準は不要)。

4. 円筒度(Cylindricity)
円筒面が、理想的な円筒からどれだけ歪んでよいかを規定します(真円度+直線度などを含む面全体の形状)。

5. 線の輪郭度(Profile of a line)
ある断面(線)における輪郭(曲線)が、理想輪郭からどれだけずれてよいかを規定します。

6. 面の輪郭度(Profile of a surface)
面全体としての輪郭(自由曲面等を含む)が、理想輪郭からどれだけずれてよいかを規定します。

必要なら、各記号が「形状公差(姿勢・位置・振れではなく)」に属することや、公差域(2本線内、2平面間、2同心円間など)がどう定義されるかも合わせて図で説明できます。

AIエージェントによる図面チェック事例

シンプルな図面チェック

先ほどのサンプル図面を使い、GPT-5.2モデルを使ってシンプルにチェックさせてみましょう。

添付の図面を読み取り、書き間違い、抜け漏れがあると思われる箇所をリストアップしてください。

これだけでも図面の内容を読み、解釈し、書かれた内容に対して一般的な作図方法において不都合や食い違いがあるものはチェックをしてくれます。

チェック結果の一部を掲載します。

図面から読み取れる範囲で、「書き間違い/抜け漏れの可能性が高い」と思われる点をリストアップします(※仕様判断が必要なものは“要確認”としています)。

曲げ部の形状定義が不足の可能性(R72 と R96 の関係)
曲げ部に R72 と R96 が記載され、板幅/肉厚(24?)差が24なので一見整合しそうだが、
どちらが内R/外Rか明記されていない
そもそもこの部品が板材曲げなのか、機械加工なのかが注記と整合していない(後述)
→ 加工方法に応じて 内R指定、外形R指定、中心R指定の明確化が必要

解釈の間違いも含まれるかも知れませんが、作図のルールを予め教えていなくても、間違いを指摘してくれます。

2枚の図面を比較する


設計変更前後の図面や、標準品と派生品のように比較元と比較先があるような場合、マルチモーダル生成AIで2枚の図面を比較することが出来ます。

これらの差をマルチモーダル生成AIが見つけ出せるか試してみましょう。

以下は、添付された2枚の図面(OCR-DEMO.dftとOCR-DEMO2.dft)の比較結果です。主な違いは以下の通りです。

  1. 作成者の名前:
  • OCR-DEMO.dft: 小松原
  • OCR-DEMO2.dft: 山田
  1. 日付:
  • OCR-DEMO.dft: 11/24/25
  • OCR-DEMO2.dft: 01/08/26
  1. 改訂番号:
  • OCR-DEMO.dft: REV 1
  • OCR-DEMO2.dft: REV 2
  1. 寸法の数値:
  • OCR-DEMO.dft:
    • 64 ±1
    • 24 ±0.5
    • O 12
  • OCR-DEMO2.dft:
    • 65 ±1
    • 24 ±0.5
    • O 11.5

これらの違いが図面の重要な点です。もしさらに詳細な解析や別の情報が必要でしたらお知らせください。

このようにして、単純に2枚の図面を比較するという他にも、チェックの観点やそれぞれの図面の特徴を情報として入力することで、より詳細な差分チェックを行うことが可能です。

結果はマークダウンやJSONでも出力が出来るので、他のシステムへの連携もスムーズです。

AIエージェントによる図面チェックの今後について

GPT-5.2のような最新のモデルであっても、A2よりも大きな図面はそのままでは読み取れません。仮に、A0の図面画像を読ませようとすると、

画像内の文字が非常に小さく、こちらの解像度(縮小表示)では判読できない箇所が多いため、このままでは図面に記載の“全内容”を正確に書き出せません。

というようなメッセージが出てしまいます。図面のサイズを縮小すると、文字がつぶれて読めなくなってしまうので、図面を分割して読ませる必要があります。例えば、図枠のタイトル部分のチェックだけであれば画像の右下部分を切り取って生成AIに読み込みます。

AIトランスフォーメーションセンターでは、今後巨大な図面も効率よく読み取ってチェックが出来るようにAIエージェントを強化していく予定です。

また、AIは完璧ではないためハルシネーション(もっともらしい嘘)や認識ミスが発生する可能性があります。そのため、AIによる一次処理+人間による最終確認」という業務フローを組み、自動化出来るところはAIに全てまかせていくのが効果的な運用方法です。

まとめ

最新のマルチモーダル生成AIの活用により、図面内のテキストだけでなく、複雑な形状や図面記号までを正確に認識・解釈することが可能になりました。これにより、従来は困難だった高度な記載チェックが現実のものとなっています。

さらに、この技術に設計ガイドラインなどのナレッジを組み合わせた「RAG(検索拡張生成)」を構築することで、チェックの精度は飛躍的に向上します。自社独自の設計・製造ルールへの適合性や、輸出入に関わる各国の法規制遵守など、専門的な知見が求められる領域においても、AIによる自動照合が可能となります。

弊社のソリューション「Know Narrator」は、OpenAIの最新モデルをはじめ、GoogleのGemini、AnthropicのClaudeといった複数のマルチモーダル生成AIに対応しています。モデルごとに得意領域が異なるため、自社の図面形式や業務特性に最適なモデルを選択・検証できるのが大きな特長です。また、業務ナレッジを格納するデータベースに設計ルール等の文書を登録するだけで、迅速にRAG環境を構築できます。

Know Narratorを用いた図面チェックの検証や、貴社専用の図面チェックAIエージェントの開発にご興味のある方は、ぜひ以下のページよりお問い合わせください。

  

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

執筆
AIコンサルティンググループ
小松原 信明