次世代MCPで進化するAIエージェント技術

はじめに

以下のURLに示すように、2025年9月26日に、MCP仕様の次のバージョンは2025 年 11 月 25 日にリリースされ、リリース候補 (RC) は2025 年 11 月 11 日であることが発表されました。

本記事では、この発表内容をもとに、MCPがもたらすAIエージェント技術の進化と、企業が押さえるべきポイントを整理したいと思います。

MCPとは ― AIがツールと安全に会話するための共通基盤

以下、私が昔書いたコラムでも書いていますが、MCPの説明を改めて行います。

Model Context Protocol(MCP)は、AIモデル(GPT、Claude、Geminiなど)が外部ツールやデータソースと安全かつ統一的に接続するための通信仕様です。

たとえばAIに、
「PLMのXX設計書を読んで要約して」
「顧客管理システムから顧客アンケートを取得して分析して」
「社内の経営管理システムからデータを集計して報告して」
といった指示を出すとします。

従来であれば、これらのツールごとに異なるAPIや認証を組み込む必要がありました。
MCPを利用すれば、AIはすべてのツールと共通の言語で安全に接続できるようになります。

役割 代表例
クライアント層(AI層) AIモデル/エージェント GPT, Claude, Geminiなど
サーバー層(ツール層) データや機能を提供するシステム 様々な外部ツールなど
プロトコル層(MCP) 両者を結ぶ共通ルール JSON-RPC 2.0, OAuth2.0, WebSocket

つまり、MCPは「AIとツールの間で、安全に意思疎通を行うための“通訳”のような存在」といえます。

次世代MCPがもたらす5つの技術的進化

以下が、次期MCPリリースの優先分野です。

1. 非同期処理(Asynchronous Operations)の正式対応

従来は即時応答のみ対応でしたが、次期仕様では長時間処理の非同期実行を標準化。

AIエージェントが「リクエスト → 結果待ち → 取得」という人間の業務プロセスに近い動作を可能にします。

(例:財務シミュレーション、設計レビュー、RAGパイプラインの長時間処理)

2. ステートレス構造とスケーラビリティの強化

AIが処理の途中経過(状態)をサーバーに残さない設計にすることで、同時に多くのリクエストを処理できる柔軟な仕組みになります。

この「ステートレス」構造により、MCPはより速く、安定して拡張しやすくなります。 

3. サーバー識別仕様(Server ID)の導入

`.well-known URL` などのメタデータ仕様を通じて、サーバーが自身の機能・スコープ・バージョンを宣言可能に。 

クライアントは事前知識なしでサーバーの能力を認識でき、自動接続やレジストリ連携の基盤となります。

4. 公式拡張(Official Extensions)制度の整備

これまで、各業界や企業がMCPを応用するとき、「製造向けの独自メッセージ構造」や「金融システム特有の認証ルール」などを独自拡張として個別に実装していました。しかしその結果、同じ業界でも企業ごとに仕様が異なり、ツールやエージェントの再利用が難しいという課題がありました。

次期MCPでは、こうしたよく使われる拡張仕様を「公式拡張」として標準化することを目指しています。例えば、「製造業用の設計データAPI拡張」や「金融取引ログアクセス拡張」などを、MCP本体の一部として明文化・管理するなどです。 これにより、企業の開発者は「独自に仕様を定義する」必要がなくなり、標準拡張を呼び出すだけで業界共通のツール連携が実現できるようになります。

5. SDKの標準化と選びやすさの向上

MCPで使う開発キット(SDK)が整理され、言語ごとの対応範囲や信頼性が明確になります。企業は「試験導入向け」「商用運用向け」など、目的に合わせて安心して選べるようになります。

MCP Registry(レジストリー) - 公開されている MCP サーバーの発見可能性と実装性を向上させるためのオープンカタログ

2025年9月にプレビュー公開されたMCP Registryは、MCPサーバーを検索・発見・認証するための仕組みです。 企業は自社のツール群をMCPサーバーとして登録することで、AIエージェントから安全に呼び出せるようになります。

企業が押さえるべき5つのMCP時代のポイント

1. AIが操作する前提のシステム設計へ

これからの業務システムは「人間が操作するもの」ではなく、AIエージェントが安全に操作できる構造を前提とする必要があります。

業務システムをAPI化し、認可制御を組み込んだ疎結合設計が鍵です。

2. データを“AIが理解できる構造”に

昨今、「AI-Readyデータ」という言葉がよく語られるようになってきましたが、

AIが活用できるのは「AI-Ready」なデータです。

部門ごとに散在するデータを、メタデータ定義・権限情報・分類ルールまで統一して管理することが求められます。

MCP活用は、データ基盤整備と合わせて進めるのが効果的です。

3. 認証・監査のMCP対応

AIが社内システムを操作する時代では、「どのAIが・いつ・どのデータを扱ったのか」を記録・管理する仕組みが不可欠です。

AIの操作ログを監査し、Entra IDなどでAIごとのアクセス権を制御することで、MCPレイヤーでも人とAIを区別して安全に管理することができます。

4. 部門エージェントの統合ガバナンス

今や多くの企業で、各部門が独自にAIを開発しています。しかし、部門ごとにバラバラに進めると、データの扱い方やセキュリティ基準が不統一になりがちです。

そこでMCPを活用すれば、全社で共通のルール・承認プロセス・開発テンプレートを定め、各部門のAIを安全かつ効率的に連携させることができます。

5. ベンダー横断のMCP

企業のAI活用は、すでにOpenAI、Microsoft、Anthropic、Googleなど複数のベンダーが共存する時代に入りました。しかし、それぞれが独自の仕様で動くため、AI間の連携が難しいのが現状です。

MCPは、この“AIごとの壁”を取り払い、どのベンダーのAIでも同じツールやデータにアクセスできる共通ハブになります。これにより、例えば、GPT5で処理し、Geminiで報告書をまとめるといった、マルチモデル連携が1つの企業基盤の上で実現可能になります。

まとめ

単に文書要約のように、文章の入出力だけで生成AIが人の業務を支援する段階は、すでに過ぎ去ろうとしています。

これから始まるのは――AI同士が連携し、協調して仕事を進める時代です。

そのとき欠かせないのが、AIたちが互いを理解し、安全に協働するための「共通言語」。それこそが Model Context Protocol(MCP) です。

開発者にとっては、一度作れば、あらゆるモデルで動かせる“普遍的な接続標準”です。

企業にとっては、AI-Ready基盤と業務データを安全に結びつける“AIガバナンス層” です。

産業界にとっては、ベンダーを超えてAIが協調する“新しい情報インフラ”です。

MCPは、技術仕様ではありますが、AIが組織の中で“責任ある主体”として動くための、信頼と統制の仕組みを兼ね備えたAI基盤の重要な要素なのです。

筆者
AITC センター長
深谷 勇次