あなたのAIエージェントと私のAIエージェントがコラボレーションして業務を遂行!?~A2AとMCPがもたらす次世代AIエージェントアーキテクチャ~

2025年は「AIエージェント元年」と呼ばれています。背景には、AIエージェントが実用段階に入り、業務自動化や意思決定支援などで本格的に活用され始めたことがあります。さらに、AIエージェント(自律的に動作するAIプログラム)が複数のツールや他のAIエージェントと連携し、タスクを分担して協調動作する「マルチエージェント」の重要性が高まってきています。今後、AIエージェント同士が連携していく際に、“ルールブック”的な位置づけとなる2つの“プロトコル“が最近提唱されました。
今回は、そのような背景を踏まえたコラムをお届けしたいと思います。
繋がるためには
さて、パソコンに、いろいろな機器を繋ぐ場合はどうしますか?例えば、キーボードや、マウス、CD-ROMドライブなどを繋ぎたい場合はどうしますか?
はい、USBで繋ぎますよね。
さて、パソコン同士を繋ぐ場合はどうしますか?
はい、LANで繋ぎます。有線LANと無線LANとあります。
上記を図にすると、以下のようになります。

いろいろなメーカーが作っているどのパソコンでも、いろいろなメーカーが作っているどのキーボードやマウスとも繋がります。いろいろなメーカーが作っているどのパソコン同士も繋がります。なぜでしょうか?
パソコンのキーボードやマウスは、「どうやってパソコンに信号を送るか」というやり方があらかじめ業界全体で標準化されています。各パソコンメーカーは、このUSB規格に対応してパソコンを作っているため、どのメーカーのパソコンでも、どのメーカーのキーボードやマウスでも問題なく動作します。LANを通じたパソコン間の通信では、「TCP/IP」という世界標準のプロトコルを使っています。TCP/IPは、どのメーカーが作ったパソコンにも搭載されていて、データの送り方や受け取り方がきちんと決められています。そのため、異なるメーカー同士でも、LANケーブルでつなぎさえすれば、お互いに「何をどう送るか」が分かり合えるため、スムーズに通信できるのです。
さて、パソコンを、“AIエージェント“に、マウスやキーボードを、“AIエージェントの利用するツールであるRAG(Retrieval-Augmented Generation)やDatabase”とすると、以下の図のようになります。

以上を、非常にシンプルに比較すると以下のようにまとめられます。
| パソコン | AIエージェント | |
| 同士が繋がる連携 | LAN | A2A |
| ツール接続 | USB | MCP |
これから説明するMCP(Model Context Protocol)とA2A(Agent2Agent)について、このイメージを持っていただくと、以下の内容を理解しやすいと思います。そこで、まずはこのようなお話をしました。
A2A(Agent2Agent)とMCP(Model Context Protocol)の位置付けと重要性
MCP(Model Context Protocol)とは、2024年11月25日にAnthropicが提唱した、AIモデルと外部データソースやツールを繋ぐための標準プロトコルです。
以下、11月以降の主要なイベントです。MicrosoftやGoogleもサポートを表明しています。
| 日付 | 内容 |
| 2024年11月25日 | AnthropicがMCPを発表 |
| 2024年11月末〜12月 | Block、Apollo、ReplitなどがMCP採用を表明 |
| 2025年3月26日 | OpenAIがMCP採用を発表 |
| 2025年4月2日 | Microsoftが公式C# SDKを公開 |
| 2025年4月9日 | Google DeepMindがMCPサポートを表明 |
A2A(Agent2Agent)とは、「AIエージェント同士が直接やり取りし、連携してタスクを遂行するプロトコルや仕組み」のことです。Googleが2025年4月9日のGoogle Cloud Next 2025で提唱した新しいAIアーキテクチャ概念です。
以下、直近のイベントです。
| 日付 | 内容 |
| 2025年4月9日 | Google Cloud Next 2025でA2Aを発表 |
| 2025年4月10日 | Googleは、A2Aの技術仕様やコードサンプルを含む公式ドキュメントを公開。 Salesforce、SAP、ServiceNow、LangChainなど、50社以上のテクノロジーパートナーがA2Aの開発・運用に協力していることが明らかになった。 |
| 2025年4月17日 | Microsoftは自社のAI開発フレームワークであるSemantic Kernelにおいて、GoogleのA2Aプロトコルとの統合を発表(https://devblogs.microsoft.com/foundry/semantic-kernel-a2a-integration/) |
A2AとMCPは競合するものではなく補完関係にあり、Googleも「A2AはAnthropicのMCPを補完するオープンプロトコルであり、MCPはAIエージェントに有用なツールとコンテキストを提供するものだ」と説明しています
これらA2AとMCPが、AIエージェントに対して、今後どのような影響を与えていくかを以下3つの観点から考察していきたいと思います。
- 企業利用のユースケース
- 開発者体験の変化
- AIソリューション開発の進化
1. 企業利用のユースケース
A2AとMCPに対応したAIエージェントは、様々な業務領域で自律的な支援や自動化を実現すると期待されています。企業がこうしたAIエージェントを導入する具体的ユースケースとして、例えば次のようなものが挙げられます。
カスタマーサポート
顧客対応において複数のAIエージェントが協調します。フロントでは対話型のAIエージェントが顧客からの問い合わせに応答し、裏側では別のAIエージェントが社内ナレッジベースやCRMシステム(顧客管理データベース)にアクセスして必要な情報を取得します(このデータ連携にMCPが活用される)。A2Aにより対話AIエージェントとデータ取得AIエージェントがシームレスに連携し、適切な回答や解決策を提示できます。例えば、顧客対応のAIエージェント同士が自然な対話モードで協調し合うことで、従来よりも迅速かつ一貫性のあるサポートが可能になる可能性があります。
社内業務の自動化(ITサポートや手続き業務)
社内の反復的な手続きやITサポート業務にもAIエージェントの可能性があります。例えば新入社員のオンボーディング手続きを考えます。チャットボット型のAIエージェントが従業員からの依頼を受け付けると、社用PCの発注やアカウント作成など各種タスクをそれぞれ専門のAIエージェントに振り分けます。PC発注エージェントは調達システムと連携(MCP経由で在庫データベースや購買APIにアクセス)し、必要な機種を手配します。一方、アカウント作成エージェントは社内ディレクトリサービスと通信してアカウント登録を実施します。それら複数のAIエージェントがA2A通信で連携することで、「社員の依頼」から「各種システム処理」までを自動的かつ安全に繋ぐワークフローが実現します。
Googleの発表(https://developers.googleblog.com/en/a2a-a-new-era-of-agent-interoperability/)でも「企業は日常的な社内手続きをAIエージェントに任せることで、生産性を向上しプロセスをスケールさせている」とされており、新しいPC調達のようなIT業務から、従業員サポートまで幅広く適用できると述べられています
サプライチェーン管理
物流・在庫管理の分野でもマルチエージェントの協調が力を発揮する場面も想像できます。例えば在庫レベルを監視するAIエージェントが所定のしきい値を下回ったことを検知すると、A2Aを介して発注担当エージェントにリクエストを送ります。発注エージェントは調達先や価格を自律的に検討し、サプライヤーシステムのAPIにMCP経由でアクセスして追加発注を行います。同時に、物流スケジュール調整エージェントが運送業者のシステムと連携して納期を調整する、といった具合に複数エージェントが供給網の各プロセスを分担します。エージェント同士の協調により、需要変動やトラブル発生時にも俊敏に対処できるしなやかなサプライチェーンを構築できます。実際にGoogle(https://developers.googleblog.com/en/a2a-a-new-era-of-agent-interoperability/)は、サプライチェーン計画へのAIエージェント活用が進んでいると述べており、複数のAIエージェントが企業全体のアプリケーション環境を横断して協調動作することで、前例のないレベルの効率化とイノベーションをもたらすと期待されています
人材採用・人事業務
AIエージェントの協調は人事領域にも応用できる可能性があります。例えばソフトウェアエンジニアの採用プロセスを考えてみます。採用マネージャーであるユーザーがAIエージェントに対し「この求人条件に合う候補者を探して」と依頼すると、そのAIエージェントはまず社内外の人材データベースを検索するAIエージェントに問い合わせ、候補者リストを取得します。続いて、日程調整エージェントが候補者との面接日時を自動的に設定します。さらに、身辺調査を行うAIエージェントへとタスクを引き継ぎます。
以上のように、A2AとMCP対応のAIエージェントは社内外の様々なシステムと連携して複雑な業務を自律的に処理できるため、幅広い企業ユースケースで活用可能です。特にエンタープライズ領域では、異なるクラウドサービスやアプリケーションが存在する環境下でもAIエージェント同士が標準プロトコルで情報連携できる点が大きな価値となります。
2. 開発者体験の変化
次に、A2AやMCPがAIエージェントの開発者体験に与える影響を考えます。これらのプロトコルはAIエージェント開発者に多くの利点をもたらし、開発スピードの向上や保守性の向上に寄与します。その主なポイントを以下にまとめます。
エージェント間連携の容易化
A2Aプロトコルに準拠してAIエージェントを開発すれば、異なる開発者やベンダーが作成したAIエージェント同士でも簡単に連携させることができます。開発者は、自分のエージェントにA2Aインタフェースを実装するだけで、他のA2A対応エージェントとタスクやメッセージをやり取り可能です。これはまさに 「プラグアンドプレイ可能なエージェント」を実現するもので、特定のフレームワークやプラットフォームに縛られない相互運用性があります.
標準化による統合のシンプル化と再利用性
A2A/MCPいずれもオープンな標準仕様として公開されており、既存の一般的な技術を用いて実装されています。例えばA2Aは通信にHTTPベースのAPI(JSON-RPCやServer-Sent Eventsなど)を採用しており、既存のWebサービスやマイクロサービスと同様の感覚で扱えます
コンテキスト管理の容易化
MCPプロトコルは、AIエージェントが外部データやツールを利用する際のインタフェースを標準化します。従来、チャットボットに企業内データベースの情報を参照させる場合などは、開発者が個別にAPIを呼び出して結果をプロンプトに埋め込む、といったカスタム実装が必要でした。各データソースごとに形式も異なるため、統合は困難でスケーラビリティに欠けていました。MCPを用いることで、こうした外部データ連携の共通化が図れます。開発者はMCPクライアント(AIエージェント側)を実装し、あとは必要なMCPサーバ(データソース側のコネクタ)に接続するだけで、モデルに外部コンテキストを与えることができます。例えば「ファイルサーバ上のドキュメントを読ませたい」と思ったら、MCP経由でファイルサーバ用コネクタに接続するだけで、文書内容がモデルに提供されます。開発者は一からAPIクライアントを実装したり認証処理を考慮したりする必要がありません。これはまさに最初に説明した「AIにとってのUSB」のイメージです。様々なデータソースを共通のポート経由で扱えるため、コンテキスト拡張の実装が劇的にシンプルになります。さらにMCPにより、基盤となるモデル(LLM)を差し替えることも容易です。共通のプロトコルを介してデータを渡しているため、背後のAIモデルを、例えばAnthropicのClaudeからOpenAIのGPTに変更するといった場合でも、MCPのクライアント部分さえ適合していれば大部分のコードを再利用できます。このモデルやベンダーの切り替え容易性は、進化の早いAI業界において開発者に大きな柔軟性を与えます。
開発スピードと保守性の向上
A2AとMCPの利用は、AIソリューション開発のスピードを加速し、保守コストを削減できる可能性も高いです。A2AとMCPを採用すれば、ゼロから統合や通信部分を作り込む必要がなくなるため、開発に要する工数が減ります。特に、複数の外部システムと接続する高度なAIエージェントを開発する場合でも、MCP対応コネクタを組み合わせれば「つなぎこみ」に費やす時間が削減できます。また、一度A2A/MCP対応にしておけば将来的な拡張も容易です。新たなAIエージェントやデータソースが増えても標準仕様に従って追加するだけなので、システム全体を作り直す必要がありません。このように開発サイクル全体が効率化し、保守面でもプロトコル自体はコミュニティや提供企業(GoogleやAnthropic)によって継続的に改良・支援されるため、個々の開発者は自前で大規模なアップデート対応をする負担が軽減すると考えられます。例えば、今後セキュリティ要件の変更があっても、プロトコル標準がアップデートされ各実装がそれに追随すれば良く、各社が独自実装を直す場合に比べて一貫性のある対処が可能です。さらにA2AとMCPはオープンソースプロジェクトとして進化しています。そのため、バグ修正や機能拡張がコミュニティ主導で行われ、最新の知見がプロトコル全体に共有される恩恵も受けられる可能性があります。以上より、開発者にとってA2AとMCPの採用は「楽に作れて変化に強い」AIエージェント開発への道を開くものと言えます。
3. AIソリューション開発の進化
A2AとMCPといったオープンプロトコルの普及は、AIソリューションの設計手法そのものを変革すると予想されます。従来は単一の大規模モデルや限られたチャットボットが個別に機能していたものが、今後は複数の専門AIエージェントを組み合わせて問題解決にあたるアーキテクチャが主流になる可能性があります。そうした将来像における主要なポイントを考えます。
AIエージェント間の協調と専門化
AIエージェント同士が容易に通信・連携できるようになると、一つの大きなAIに全てを任せるのではなく、役割分担された複数のAIエージェントのチーム(集団)で問題解決にあたる設計が進むと考えられます。各AIエージェントは特定の能力に特化し(例: 対話スキル、計画立案、データ取得、画像認識など)、A2A通信によってお互いの知見やスキルを共有し合います。これにより、個々のAIエージェントでは対処しきれない複雑な課題を協調的に解決できるようになります。例えば前述した人材採用のケースでは、求人要件を理解するAIエージェント・候補者データを集めるAIエージェント・日程を調整するAIエージェントなどがチームを組み、一連の採用業務をこなしました。同様に、製造業の品質管理ではセンサーデータ解析エージェントと検品ロボット制御エージェントが協働したり、医療の診断支援では問診対話エージェントと画像診断エージェントが連携したりと、「専門AIの組み合わせ」による新たなソリューションが可能になります。こうした協調動作は従来カスタム統合なしには困難でしたが、A2Aにより異種AIエージェント間の対話が標準化されたことで飛躍的に実現しやすくなります。
スケーラビリティ(拡張性)の向上
複数のAIエージェントによる処理分散は、AIソリューションのスケーラビリティを高めます。タスクを並行して処理できるためスループットが向上し、また負荷が高まった際にはAIエージェントのインスタンスを増やすなどして柔軟に対応できます。A2Aプロトコルは短時間で完了するタスクから人間を介して数日かかる長時間タスクまで扱えるように設計されており、タスクの途中経過や中間結果を逐次やりとりしながら進行できる機構(ステータス更新や途中通知の仕組み)を備えています。
セキュアな情報共有とガバナンス
企業利用にはセキュリティが不可欠です。A2AおよびMCPはいずれもセキュアな情報共有を重視して設計されています。A2Aでは通信における認証の標準が組み込まれており、OAuthなど既存の実績ある方式でAIエージェント間の信頼関係を構築できます
マルチクラウド・マルチフレームワークへの対応
オープンプロトコルの採用により、ネットワークレベルで通信可能であれば、AIエージェントはクラウドやフレームワークの壁を越えて協調できるようになります。A2Aは特定ベンダー依存ではなく公開仕様のため、オンプレミス環境のAIエージェントとクラウド上のAIエージェント、あるいはAWS上のサービスとAzure上のサービスといった異なる環境間でも共通言語で通信可能です。
オーケストレーション構成
A2AとMCPがAIエージェントの協調・統合を容易にしたことで、オーケストレーション構成がより有効になります。複数エージェントをただやみくもに連携させるだけでなく、ある上位の「オーケストレーターエージェント」が下位のエージェント群を統括してタスク分割・結果統合を行う構造です。
A2AとMCPにより蓄積された共通のAIエージェントエコシステムから、新たなサービスやビジネスモデルも生まれる可能性が考えられます。例えば、社内外で利用可能なAIエージェントカタログやマーケットプレイスが登場し、「〇〇機能に特化したAIエージェント」を必要に応じて取得して自社システムに組み込む、といった実現可能性も考えられます。プロトコル標準のおかげで互換性は保証されているため、他社が提供する優れたAIエージェントコンポーネントを自社のワークフローに取り入れるハードルが低くなります。その結果、各社が得意分野のAIエージェントを開発・提供し合うエコシステムが形成され、ユーザー企業はそれらを組み合わせて迅速にAIソリューションを構築できるようになると考えられます。まさにレゴブロックのように、標準化されたAIエージェント部品を組み立てて自社の課題解決に当たる時代が来るかもしれません。
まとめ
MCP(Model Context Protocol)とA2A(Agent2Agent)は、AIエージェント同士の協調と外部環境との結合を標準化することで、次世代のAIソリューションの設計と実装を大きく前進させる鍵となる技術です。企業利用のユースケース、開発者体験の変化、AIソリューション開発の進化という観点から、そのインパクトを考えてきました。オープンプロトコルが広く採用されAIエージェントエコシステムが成熟していけば、かつてのWeb技術標準がそうであったように、AI活用の在り方も今まで想像し得なかったレベルにまで進化していく可能性があります。A2AとMCPが切り拓く未来のAIエージェントアーキテクチャに注目しつつ、我々もこの新しい波に乗って創造的なソリューションを生み出していきたいと思っています。
以下、先週我々が発表したAIエージェントのソリューションです。是非こちらもご覧ください。
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筆者
AITC センター長
深谷 勇次


