そのExcel、AIはどこまで読めていますか? 横長の表と長文セルから考える業務RAG

はじめに

AITCセンター長の深谷です。

皆さんの会社にも、こんなExcelはありませんか?

  • 右へ右へとスクロールしないと、全体を確認できない設計チェックリスト
  • 一つのセルに、原因や対策、判断の経緯がびっしり書かれた過去トラブル一覧
  • 表の横に、補足説明のテキストボックスや図、グラフが配置された管理資料

どれも、業務ではごく普通に使われているExcelだと思います。そして、こうしたファイルほど、担当者の経験や、会社として積み上げてきた知識が詰まっています。

だからこそ、生成AIに読ませて活用したい。

ところが、RAGに登録して質問してみると、「そこはExcelに書いてあるのに、なぜ答えられないの?」となる。セルの前半には触れるのに、後半に書いた大事な条件を拾ってくれない。原因を聞いているのに、別の項目の内容が返ってくる。

こうした経験から、「やはりExcelはAIに読ませにくい」と感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、そのようなExcelの読み取りを改善するために重要な観点と、Know Narratorの機能をご紹介します。

「RAGの読み取り対象にExcel指定できます」の、その先を確認していますか?

RAGは、社内資料などから質問に関係する情報を検索し、その情報を生成AIに渡して回答させる仕組みです。Know Narrator Searchも、業務に必要な社内知識を参照して回答するために、この仕組みを提供しています。

このとき、ファイルを登録してから回答が返るまでには、いくつかの段階があります。

段階 確認したいこと
読み取り 必要なセルの文章や数値を取り出せているか
検索用データへの分割 見出しと内容、同じ行の情報の対応が保たれているか
検索 質問に答えるために必要な情報が見つかっているか
回答生成 見つかった情報の条件や例外まで踏まえて答えているか

例えば、読み取りの段階で、回答に必要な条件となる一文が抜けてしまったら、その後にどれほど高性能なAIを使っても、その資料を根拠に条件を説明することはできません。

また、文字が取り出せていても、それが「発生原因」なのか「実施した対策」なのか分からなければ、AIは推測して回答することになります。それはつまりハルシネーション(AIが事実とは異なる誤った情報を出力する現象)に繋がることになります。

つまり、業務RAGでは、AIに届くまでに、Excelの情報がどのような形になっているかが大切なのです。

横長の表と長文セルは、なぜ難しかったのか

Excelは、紙のページに収まることを前提に作られているとは限りません。横に列を増やせますし、一つのセルに長い文章も保存できます。

ExcelをPDFに変換して読み取る方式では、改ページや表示幅が情報の取り出し方に影響します。PDF変換を伴う処理では、表の構造が崩れたり、図形内の文章が意図しない位置で分割されたりします。

横長の表では、一件の情報が離れてしまう

例えば、設計部門の過去トラブル一覧を考えてみます。

左側には「管理番号」「製品」「発生現象」、中央には「発生条件」「原因」、右側には「対策」「検証結果」「次機種への注意事項」が並んでいるとします(実際のお客様の管理表はもっと項目が多いです)。

人は横にスクロールしながら、これらを同じ一件の情報として読んでいます。

しかし、PDF化の際に表が左右のページに分かれ、その単位で検索用データが作られると、「どの現象に対する対策なのか」という対応を保てません。右端に詳しい注意事項が書かれていても、質問への回答に必要な情報として取り出しにくくなるわけです。

長文セルでは、見えている範囲と保存されている内容が違う

次の事象として、セルの中に長文が入っているケースをイメージしてください。

例えば「対策内容」のセルに、対策の概要、採用理由、適用条件、例外事項まで記載されているとします。行の高さが固定されていれば、画面や印刷結果には、その文章の一部しか表示されないことがあります。

人ならセルを選択し、数式バーなどで続きを確認できます。しかし、表示・印刷された内容をもとに読み取る処理では、その続きが取り込みに反映されない可能性があります。

業務で活用したい情報は、むしろ後半に書かれた「この場合は適用しない」「この条件では別途確認する」といった記述だったりしますよね。

結局、途中で情報がきれていると、使えない情報となってしまいます。

Know Narratorは、Excelのセル情報を直接取り出すことができます

こうした課題に対応するため、Know Narratorでは「Excel直接抽出機能」がございます。

セル情報を直接取り出し、行単位で検索用の情報のまとまり、すなわち「チャンク」を作成します。改ページや表示幅の影響を受けにくくすることで、従来読み取りにくかった横長の表や長文セルの内容を扱いやすくする機能です。

先ほどの過去トラブル一覧なら、同じ行に並ぶ発生現象、原因、対策などを、行単位の情報として扱いやすくなります。長文セルについても、表示枠に収まっている文章だけに依存せず、保存されているテキストを抽出できます。

さらに、次のような場面でも活躍します。

仕組み 業務でうれしいポイント
セルと図形内のテキストを直接抽出 表の内容に加え、テキストボックスなどの補足説明も取り込める
印刷タイトルに設定された行を、各チャンクの見出しに付与 分割後も、項目の意味を把握しやすくなる
画像には説明文を生成 写真や画像の内容も検索・回答に生かせる
グラフや矢印のシェイプを含む場合は、シート全体も画像として読み取り 文字情報とともに、配置やつながりなどの視覚情報も扱える

「Excel対応」という言葉だけでは見えにくい部分ですが、我々は、こうした取り込み処理を行うことで、日本のExcel文化にできるだけ対応出来るように、つまり日本企業の生成AI活用業務で、”本当に使える”を目指して、Know Narratorを改善し続けています。

Excelに蓄積した経験を、次の仕事で使える知識へ

では、どのような事例で使えるのでしょうか。ここでは、活用を検討したい業務と質問の例を挙げます。

業務 活用したいExcel 質問の例
設計・品質 過去トラブル一覧 「低温環境で発生した類似不具合と、その対策・適用条件を教えて」
設計レビュー 設計チェックリスト 「この部品の材質を変更するとき、確認すべき項目と理由を教えて」
営業・技術営業 顧客からの質問・回答一覧 「この仕様に関する過去の回答と、回答時の前提条件を教えて」
社内業務支援 従業員アンケートの自由記述一覧 「社内システムの使いにくさについて、どのような意見や改善要望が寄せられている?」
人事・総務 社内制度・申請手続きのFAQ一覧 「育児のために勤務時間を変更したい場合、利用できる制度と申請条件、必要な手続きを教えて」
経理・財務 経費精算の問い合わせ・差し戻し事例一覧 「出張先で領収書を受け取れなかった場合、過去にはどのような書類や確認で対応している?」
購買・調達 仕入先の評価・取引条件・対応履歴一覧 「短納期の依頼に対応した実績がある仕入先と、その際の条件や注意点を教えて」
プロジェクト管理 課題・リスク・対応履歴の管理表 「顧客の仕様確定が遅れた案件では、どのように対応し、何を顧客と合意していた?」
情報システム・ITサポート 社内システムの障害・問い合わせ対応履歴 「パスワード変更後にVPNへ接続できなくなった事例と、原因・解決手順を教えて」
顧客対応・サービス運営 苦情・要望・対応記録の一覧 「納期遅延の連絡に関する苦情では、過去にどのような説明や対応を行い、何が解決につながった?」

これらのExcelで知りたいのは、単なる項目の値だけではありません。右端の「備考」や、長文セルの後半にある「判断理由」「適用条件」「例外対応」こそ、次の仕事に役立つ知識です。その情報を、同じ行の出来事や対応内容と結び付けて取り出せることが、業務で使えるRAGにつながります。

日々の業務で書きためたExcelが、次の担当者の調査や判断を助ける。今回の改善は、そのための土台を強くするものです。

まずは、うまく読めなかったExcelで試してみ

導入を検討する際は、実際に業務で使っているExcelと、そのExcelで答えられるはずの質問を用意します。

特に、これまで読み取りに困っていたファイルが適しています。右端の列にしか答えがない質問や、長文セルの後半にある条件を聞く質問で試すと、今回の改善を確認しやすくなります。

答えが返ったかに加え、元のExcelと照らし合わせ、同じ事例の原因と対策が対応しているか、例外条件まで反映されているかを確認します。読み取りの改善を、実際の仕事で役立つ回答につなげるためです。

ExcelやPowerPointのRAG活用に困っているなら、Know Narratorで

企業のExcelやPowerPointには、数値や項目の一覧だけでなく、「なぜそう判断したのか」「どの条件でうまくいったのか」「次に何を確認すべきか」という、業務の経験が蓄積されています。

Excelの長文セルに書かれた判断の経緯。PowerPointの図で表現された仕組みや、グラフで示された傾向。こうした情報まで活用できるようになると、業務RAGが答えられる質問の幅も広がります。

Know Narratorでは、今回ご紹介したExcel直接抽出機能に加え、表や見出しの構造を考慮した前処理や、PowerPoint内のSmartArt・テキストボックスなどからの文字抽出に対応しています。

さらに、マルチモーダルRAGによって、PowerPointに含まれる画像や図、グラフの意味や構造も読み取り、検索・回答に活用できます。 例えば、業務フロー図に描かれた手順や条件分岐、グラフが示す変化など、文字を取り出すだけでは伝わりにくい情報も、業務の知識として扱えるようになります。

  • 「Excelの右端の列や、長いセルに書かれた内容まで、しっかり参照してほしい」
  • 「PowerPointの文章だけでなく、貼り付けた画像や図表も回答に生かしたい」
  • 「以前RAGを試したものの、資料を十分に読み取れず、活用が進まなかった」

そのような課題があれば、ぜひ電通総研AITCにご相談ください。お使いのExcelやPowerPointと、そこから知りたいことを起点に、資料に合った読み取り方を確認し、Know Narratorによる業務での活用をご支援します。

皆さんの会社に蓄積された資料を、日々の仕事で質問し、活用できる知識へ。まずは、読み取りに困っているファイルから、一緒に始めてみませんか。


筆者
AITC センター長
深谷 勇次