令和8年版 情報通信白書は、ほぼAI通信白書!? AIがICTの一分野ではなくなった2026年

はじめに
AITCセンター長の深谷です。
2026年7月、総務省から「令和8年版 情報通信白書」が公開されました。
情報通信白書は、日本の情報通信分野の現状や動向、ICT市場、インターネットや通信インフラの利用状況、そして政府の情報通信政策などを総務省が毎年取りまとめている白書です。
その年のデジタル社会がどのような状況にあり、どのような技術や社会変化が重要なテーマになっているのかを俯瞰できる資料であり、ITに関わる仕事をしている私にとっても、毎年確認している資料の一つです。
例年7月くらいに発行されるため、私は毎年、夏休みの時期に情報通信白書を見るのが恒例になっています。
そんな中、今年の白書を読んで、例年以上に非常に象徴的な変化を感じました。
その変化を少し大胆に言えば、
令和8年版 情報通信白書は、もはや「ほぼAI通信白書」になったのではないか?
ということです。
もちろん、正式名称は「情報通信白書」ですし、後半では通信、5G、クラウド、サイバーセキュリティ、デジタル利用、ICT政策など、これまでの情報通信白書が扱ってきたテーマもしっかり取り上げられています。
ですから、「白書のすべてがAIになった」という意味ではありません。
しかし、白書全体から「2026年のデジタル社会を考えるうえで、最も重要な変化は何か」というメッセージを読み取るなら、私は間違いなく”AI”だと思いました。
今年の情報通信白書では、AIはもはや「ICTを構成する一つの技術」として扱われておらず、個人の生活、企業経営、業務プロセス、研究開発、社会、そしてガバナンスまでを横断して変化させる基盤技術としてAIが扱われています。
今回は、この「ほぼAI通信白書」とも言える令和8年版情報通信白書から、特に企業のAI活用に携わる立場で重要だと感じたポイントを紹介したいと思います。
第I部が、丸ごとAIになった
今回の白書を象徴しているのが、その構成です。
第I部の特集タイトルは、
「AIの進展がもたらす多面的影響 ~人間とAIが健全に協働するデジタル社会の実現に向けて~」
となっています。
そして、
- 個人におけるAI利用
- 企業等におけるAI利用
- AIの進展に伴う課題と対応
という流れで、第I部そのものがAIを中心に構成されています。
今回の白書について、個人・企業におけるAI利用、企業の先進事例、最近の研究動向などを概観し、「人間とAIが健全に協働するデジタル社会」を展望するものと説明されています。
数年前までであれば、
「クラウド」
「IoT」
「5G」
「セキュリティ」
「AI」
というように、AIはデジタル技術を構成する一要素として語られることが多くありました。
しかし今回は違います。
AIを中心にして、個人、企業、社会、技術、ルールを読み解いている。
つまり、
「ICTの中にAIがある」のではなく、「AIを中心にICTと社会を考える」
という構造へ変わってきているのです。
私は、この構成自体が令和8年版情報通信白書の最も重要なメッセージの一つだと感じています。
個人の生成AI利用率は58.8%へ
では、日本のAI活用はどこまで進んだのでしょうか。
まず個人についてです。日本における生成AIの利用経験率は、2025年度調査で”58.8%”となりました。
2024年度は"26.7%”だったため、わずか1年で大幅に増えています。
一方で、日本では「ほぼ毎日利用する」人は約3割、「ほぼ毎日1時間以上利用する」人は1割超です。また、画像生成や動画生成など、テキスト生成以外のAI利用はまだ相対的に低いことも示されています。
つまり、
「生成AIを使ったことがある人」は一気に増えたが、「生活や仕事の中で日常的に使い込んでいる人」は、まだそこまで多くない。
という状況です。
年齢別では、15~19歳の利用経験率が最も高く、20代、30代と続きます。
これから社会に入ってくる世代にとって、AIは「新しいITツール」ではなく、最初から存在する道具になりつつあります。
これは今後の働き方を考えるうえで、非常に大きな変化でしょう。
「AIをどう捉えるか」にも国ごとの差がある
「生成AIはどのような存在か」という質問がありました。
日本、米国、ドイツでは「機械・道具」が最も多かった一方、中国では「秘書・アシスタント」が最も多くなっています。
さらに次点では、日本は「辞書・百科事典」、米国や中国では「友人」、ドイツでは「カウンセラー」という回答が出ています。
日本ではまだ、「AI=便利な検索・文章生成ツール」という認識が比較的強い一方、AI利用が進んでいる国では、「AI=一緒に考える相手」に近づき始めています。
今後AIエージェントやパーソナルAIが普及していけば、この違いはさらに重要になってくると思います。
日本企業の86.4%が生成AIを利用する時代へ
企業側の数字はさらに印象的です。
日本企業のうち、自社の何らかの業務で生成AIを利用している割合は、"86.4%"まで上昇しました。
また、「積極的に活用する」「利用領域を限定して活用する」を合わせた企業のAI活用方針も68.9%となり、前年の49.7%から大きく増加しています。
ここまで来ると、「生成AIを導入するか、しないか」という議論そのものが、かなり古くなってきたと言えます。企業にとって生成AIは、検証する特殊な技術から、日常業務で使う一般的なITへ移りつつあります。
しかし、今回の白書で私がもっと重要だと思ったのは、この86.4%の内訳です。
86.4%使っている。しかし、会社はまだあまり変わっていない
日本企業の生成AI活用状況を見ると、最も多いのは「議事録・メール作成補助」で、約7割となっています。
もちろん、これは悪いことではありません。文章作成、要約、翻訳、議事録作成などは、生成AIが非常に得意な領域です。しかし問題は、その先です。
生成AI活用による業務変革について聞くと、”日本では「組織的な取組はない」と回答した企業が約3割弱”存在し、他の調査対象国より高くなっています。
さらに、「業務プロセスを見直し、生成AI活用に必要なスキルやノウハウを学ぶ環境」や、「生成AIが参照できる社内データベースなどのデータ環境」についても、日本企業は米国、ドイツ、中国より低い結果となっています。
私はここに、現在の日本企業における生成AI活用の本質的な課題が表れていると思います。
つまり、「日本企業では、AIは使うようになったが、AIを前提として仕事そのものを変えるところまでは、まだ十分に進んでいない」ということです。
「AIを使う」から「AI前提で仕事を再設計する」へ
では、AI活用が進んでいる企業は何をしていると、白書では書かれているのでしょうか。
白書では、先進企業や有識者へのヒアリングから、いくつかの重要なポイントを整理しています。
まとめると、以下のようなことを実施しているとあります。
- 経営層がAIの有効性を理解し、活用領域を明示する
- AIをコストではなく、ノウハウや知見が蓄積する「無形資産」と捉える
- AI活用を前提に業務そのものを抜本的に変える
- 人間とAIの役割分担を設計する
- 現場の課題を起点に、DX部門などが伴走する
- AI共通基盤を整備し、社内システムや社内データと接続する
- 人材育成、ガイドライン、評価の仕組みを整える
「どの生成AIモデルを使うか」という話ではありません。むしろ、業務、データ、人材、組織、評価、ガバナンスをどう設計するかという話です。
生成AI活用の競争軸が、モデル選定から企業システム・業務設計そのものへ移っていると書かれています。
AIエージェント時代には、この差がさらに大きくなる
AITCコラムでもこれまで、生成AI活用は「チャットとして使う段階」から「AIエージェントとして業務を実行させる段階」へ移っていると繰り返しお伝えしてきました。
チャット型生成AIであれば、人が質問し、AIが回答し、人がその回答を仕事に利用します。
しかしAIエージェントでは、
1. 目標に向けて計画する
2. 必要な情報を探す
3. 社内データやシステムへアクセスする
4. 判断する
5. ツールを実行する
6. 結果を評価する
7. 必要であれば再実行する
というところまでAIが担うようになります。
こうなると、「社員にChatGPTのようなツールを配布しました」だけでは足りません。
- AIが参照できるデータ。
- AIが利用できる業務システム。
- AIが実行してよい権限。
- 人間が確認すべきポイント。
- AIの品質を評価する仕組み。
- 実行履歴や監査ログ。
こうしたAIが働ける企業基盤が必要になります。
今回の白書が指摘する「業務プロセスの見直し」「社内データとの連携」「人間とAIの役割分担」「評価の仕組み」は、まさにAIエージェント時代の企業に必要となる要素です。
AIは、もはやソフトウェアの中だけに存在しない
今回の白書では、AIに関する研究開発や社会実装の進展についても取り上げられています。
特に重要なのが、巨大なクラウドAIだけではなく、
"小規模言語モデル(SLM)"や、
"フィジカルAI"
といった方向性です。
小型化されたAIをエッジや現場で利用できれば、通信遅延、コスト、機密情報、消費電力などの課題を抑えることができます。また、フィジカルAIでは、AIがロボットや機械と結び付き、現実世界で判断・行動するようになります。
これまで生成AIは、文書、検索、画像など「デジタル空間のAI」という印象が強くありました。
しかし今後は、「設計、製造、設備、物流、保守、ロボット」といったリアルな世界にAIが入り込んでいきます。
AIの競争が、「最も賢いLLMを誰が作るか」だけではなく、「現場で価値を生むAIを誰が実装できるか」へ広がっているのです。
AIの市場規模から見ても、もはや一分野ではない
第II部には、従来どおり情報通信産業や通信インフラ、デジタル利用などのデータが掲載されていますが、その中でもAIは独立した市場として大きく取り上げられています。
世界のAI市場は、”2025年:2,442億ドル” から、”2031年:1兆54億ドル”へ、6年で4倍以上に拡大すると予測されています。
生成AI市場だけでも、”2025年:669億ドル”から、”2031年:4,421億ドル”へ、6年で6倍以上まで拡大すると予測されています。
2031年には生成AIだけで世界のAI市場の44%を占める予測です。
こうした数字を見ると、AIを「情報システムの新機能」と考えること自体が難しくなっていることが分かります。
「AIを使えばよい」という白書でもない
もう一つ、今回の白書で重要なのは、AIを楽観的に礼賛しているわけではないことです。
AIが人間の記憶や思考能力に与える影響、AIへの過度な依存、偽・誤情報、そしてAIガバナンスなども扱われています。AIによって能力を拡張できる可能性がある一方、AIへ任せすぎれば、自ら考える機会や批判的思考が減る可能性もあります。
つまり、「人間かAIか」という二者択一ではなく、「何をAIに任せ、何を人間が担うのか」という設計が重要だと説明されています。
私はすでに、企業におけるAI活用では、この「人間とAIの役割分担」が非常に重要なテーマになっていると感じています。
今回の白書の副題である「人間とAIが健全に協働するデジタル社会」という言葉には、「AIと人間が、それぞれ得意なことを担える業務を設計した社会/企業が強くなる。」というメッセージが込められいるのではと思います。
情報通信白書が「ほぼAI通信白書」になった意味
以上から、なぜ今回の情報通信白書が「ほぼAI通信白書!?」と感じたかを改めて説明します。
それは、単にAIについて書かれたページが多いからではありません。
これまでAIは、「ICTの一部であるAIを使って何ができるか」という問いに対する一つの答えだったと思います。しかし現在は、「AIが存在することを前提に、企業、仕事、社会、ICTをどう設計し直すか」という問いへ変わっています。
つまり、AIが「情報通信技術の一分野」から「デジタル社会を再編する基盤」へ変わってきているように、今回の情報通信白書の構成そのものが、AIを前提とした内容に変わったと感じたからです。
企業がこの白書から受け取るべきメッセージ
では、企業は何をすべきでしょうか?
私は、今回の白書から三つのメッセージを受け取っています。
1.「AIを導入するか」の検討は終わりつつある
企業の生成AI利用率は86.4%です。ここまで普及が進むと、これから問われるのは「AIを導入しているか」ではありません。
AIによって、実際にどれだけ仕事や成果を変えられたか。
評価の軸は、導入率から実際の業務変革や価値創出へ移りつつあります。
2.個人の生産性向上から、業務プロセス変革へ進む
議事録の作成、メールの下書き、要約、翻訳など、個人の生産性向上だけでも生成AIは大きな効果を発揮します。
しかし、本当に大きな企業価値につなげるためには、その先へ進む必要があります。
既存業務の一部をAIで効率化するだけではなく、
AIを前提として、業務プロセスそのものを再設計する。
人が行う仕事、AIに任せる仕事、人とAIが協働する仕事を見直し、仕事の進め方そのものを変えていくことが重要になります。
3.AIを前提に、組織全体を「AI Ready」に変える
AIを一部の業務や一部の社員だけで使う段階から、組織全体で活用する段階へ進むためには、その土台も変えていく必要があります。
社内データをAIが利用できる状態にする。
業務システムとAIをつなぐ。
AIにどこまでの権限を与えるのか、人間がどこで確認するのかを設計する。
AIの品質を評価し、実行履歴を監査できる仕組みやガバナンスを整える。
つまり必要なのは、単なる「生成AI導入」ではありません。
業務、データ、システム、人、組織、ガバナンスまで含めて、AIを活用できる企業へ変えていくことです。
これから組織に求められるのは、「AIを使う組織」から「AI Readyな組織」への変革です。
まとめ
令和8年版 情報通信白書を読んで、私が最も強く感じたのは、AIがもはやICTの一分野ではなく、デジタル社会全体を考える前提になりつつあるということです。
個人の利用、企業の業務変革、研究開発、社会への影響、ガバナンスまで、AIを軸に幅広いテーマが語られています。
つまり、今年の情報通信白書は、単に「AIについて多く取り上げた白書」ではなく、AIを前提として、これからのICTや社会のあり方を捉え直そうとしている白書だと感じました。
そう考えると、今回の情報通信白書を「ほぼAI通信白書!?」と表現するのも、決して大げさではないと思いました。
そして企業にとっても、これから重要なのは「AIを導入すること」そのものではありません。
AIを前提に、仕事の進め方や業務プロセス、データ、システム、そして人とAIの役割をどう変えていくか。
令和8年版 情報通信白書は、私たちがすでに「AIを使う時代」から、「AIを前提に企業や社会を設計する時代」へ移り始めていることを示しているのではないでしょうか。
電通総研では、単にAIを導入するだけではなく、「何をAIに任せ、何を人間が担うのか」から業務を設計し直すことも含めて、お客様のAI活用をご支援しています。
AIを導入したものの業務変革につながっていない、AIエージェントをどこまで業務に組み込むべきか分からない、人とAIの役割分担をどう設計すべきか悩んでいる。
そうした課題をお持ちの方は、ぜひ電通総研にご相談ください。
筆者
AITC センター長
深谷 勇次
