AIエージェントのビジネス活用は何から始める?導入のポイントを解説

 

こんにちは、AITCの徳原です。
今年になってから、AIエージェントを適用し、既存業務の効率化及びビジネスの生産性向上を目指すプロジェクトを推進することが多くなってきました。

AIエージェントは、従来の生成AIの使い方とは異なり、推論を繰り返しながら作業の進め方を自ら計画したり、自身の出力の正確さを確認したりすることができます。

こうした自律的な行動により、業務を自ら遂行できる点がAIエージェントの特徴であり、新たな生成AIの活用スタイルとして注目を集めています。

翻訳や検査など、特定の作業だけを代行するツールとしてではなく、資料作成や会議のスケジュール調整、ヘルプデスク対応といった一連の業務をまとめてこなすことができるため、従来のAIよりもより大きな導入効果が期待できます。

 

ビジネスへの影響度からこのように注目を集めるAIエージェントですが、導入するにはまず、既存業務の分析から始める必要があります。

既存業務の分析というと、「自分が実施している業務くらい、分析しなくてもすでにわかっている」と感じられるかもしれません。
しかし、AIエージェントの導入では、従来のAIや通常のITシステムを導入する際の業務分析よりも、さらに詳細な整理が必要になります。

この記事では、"業務効率化のためにAIエージェントの導入を検討しているが、何から始めるべきか悩まれている方"に向けて、業務分析の重要性とその方法について解説します。さらに、AIエージェントの開発手順やビジネス適用を成功させるポイントも解説しています。

 

なぜAIエージェントの導入において既存業務の分析が重要なのか

AIエージェントの導入には、既存業務の分析が何よりも大切と冒頭で説明させていただきました。
その理由はAIエージェントの開発がどのように行われているか理解することで見えてきます。

 

AIエージェント導入のプロセス

AIエージェントの導入プロセスを簡単に以下にまとめました。これまでのAIシステムの導入の流れと似ているところもありますが、より業務システムの開発に近い手順をとります。

  1. 既存業務の分析
  2. AIエージェントに遂行させる業務範囲とAIエージェントの機能の定義
  3. AIエージェントの開発方法の選定
  4. AIエージェントのワークフローを定義
  5. AIエージェントのワークフローの実装(設定)
  6. AIエージェントのテスト
  7. 運用・保守

開発プロセスにおいて最初に実施するのが、既存業務の分析です。続いて、その業務のどの部分をAIエージェントが遂行し、そのためにどのような機能をAIエージェントが持つのか定義します。

そのうえで、開発方法の選定をすることになりますが、AIエージェントの開発方法は大きく分けて
「LangGraphやAutoGenといったPythonモジュールを使用したプログラミングによる開発」
「DifyやMicrosoft Copilotローコード・ノーコードツールによる開発」
の二つが選択できます。

その後、AIエージェントの具体的な動きを細かい作業レベルでワークフローとして定義し、実装することになります。

さらに、AIエージェントは通常のITシステムと同じようにテストした後に、運用・保守を継続することになります。

このAIエージェントの開発プロセスにおいて最も始めに取り組むべき作業かつ、最も重要な作業が導入対象の既存業務の分析になります。既存業務の分析が正確に実施されていないと、その後の作業も正しい成果を得られなくなり、せっかくAIエージェントを開発したのに実業務では全く利用できなかったという事態になりかねません。

 

実際の既存業務は作業者が思っているよりかなり複雑なことが多い

既存業務の作業者は、自身が実施している作業はそれほど複雑ではないと認識していることが多いです。しかし、実際の業務内容を一つ一つリストアップしていくと、複雑な思考プロセスで、さまざまな関係資料・書類を確認しながら作業を進めていることが明らかになります。

業務を数年担当し熟練していくと、作業者の方は毎回意識的に思考しなくても感覚的に判断だけで作業できるようになるため、そもそも自分が判断していることすら気づいていない場合が非常に多いです。

また、業務に関係する様々な知識や情報もはじめのうちは毎回確認していたものの、だんだんその情報自体を記憶してしまうため、確認しなくとも作業が遂行できるようになります。専門知識が一般常識のように定着し、自分がその情報を使用していることすら気づいていないこともあります。

こういった既存業務の実施者が熟練している場合の業務整理は非常に難しいです。ただ、その際に重要となる基準が「一般知識しか持たないインターンやアルバイトの方が、今すぐにその業務を実施できるよう業務整理を実施する」ということになります。

なぜかというと、AIエージェントでよく使用される、ChatGPTをはじめとした生成AIモデルはインターネット上に公開されている知識しか学習していないので一般的な知識しか持っていません。(まれに業界の専門用語を知っていることもありますが、生成AIがWeb検索ができない状況でその知識を問いかけ、正しく回答できるか試すことで使用するモデルがその知識を有しているか確認できます。)

例えば、その業務を実施する方が必ずある資格を有していたり、特定の専門的な勉強を学校で受けていたりという場合は、業務が実施できるレベルで作業内容や業務に必要な情報をモデルに与える必要があります。

この、「一般知識しか持たないインターンやアルバイトの方が、今すぐにその業務を実施できるよう業務整理を実施する」ことがAIエージェントの導入を成功させるための最も重要なポイントになります。あまりにも専門性が高すぎる業務はAIエージェントの導入先として不適切な場合もあります。その場合は業務の中で専門性が不要な一部分を担当させるか、別業務への導入を検討するほうが賢明かもしれません。

このように、AIエージェントの開発の際に実施される業務整理は業界の知識を持たない一般の方でも理解できるレベルで行われるので、より綿密で正確なものになります。

 

既存業務の分析方法とは?

ここからは、実際に既存業務を分析する際の方法をまとめたいと思います。ある企業で販売している製品の顧客問い合わせ対応業務を例に具体的にまとめていきたいと思います。

 

作業のリストアップ

最初に始めるのは具体的な作業のリストアップです。この作業のリストアップで重要なことは、なるべく細かく簡潔に作業を定義し、さらにその作業で利用するツールや資料も過不足なく挙げていくことです。

以下に例として、あるメーカー企業の自社製品に関する問い合わせ対応業務の作業を簡単にリストアップしてみました。こちらは架空の業務なので、実際の業務をリスト化すると、さらに複雑なものになると思います。

作業内容使用ツール参照資料担当者
顧客問い合わせフォームに寄せられた問い合わせを確認問い合わせ管理システム高橋
問い合わせをカテゴリごとに分類Excel、問い合わせ管理システム問い合わせ分類定義高橋
過去FAQリストから同様の問い合わせがないか確認Excel過去FAQリスト佐藤
製品に関する仕様書から問い合わせに関係する情報を調査Excel製品取扱説明書、製品設計書、製品企画書高橋
解決できない問い合わせは、各問い合わせカテゴリの責任者から回答を得る問い合わせ管理システム高橋、各問い合わせカテゴリの責任者
最終回答を作成問い合わせ管理システム佐藤
最終回答をチェック担当者が回答を確認し承認問い合わせ管理システム鈴木
承認された最終回答をメールで問い合わせ元の顧客に回答メール高橋
新規の問い合わせ内容をFAQに追記Excel過去FAQリスト高橋

特に重要なのが、業務遂行に必要な情報とそれが記載されている文書ファイルをできるだけ網羅することです。

AIが知らない業務遂行に不可欠な知識が不足してしまうと、それだけでAIエージェントの業務遂行の質が大幅に下がってしまいます。その知識が文章化されておらず暗黙知として存在している場合は、一度文章化して整理することをおすすめします。

 

業務フローを作成

次に業務フローを作成します。目的としては各作業の完成や分岐の判断条件を可視化することで、AIエージェントの実施させる機能の範囲を定義し、ワークフローを検討しやすくするためです。

例えば、先ほどの顧客問い合わせ対応業務ですと、以下のように業務フローをまとめることができます。

 

こちらの業務フローはシンプルな構成になっていますが、実際の業務から業務フローを作成してみるとかなり複雑なフロー図が出来上がると思います。重要なことはそれぞれの作業がどのような関係性を持っていて、どのような順番で実行され、どのような判断によって分岐していくか整理しておくことです。

 

既存業務の業務フローをAIエージェントのワークフローに落とし込む

業務のすべてをAIエージェントに任せるのは難しいため、一部の作業は作業者が実施します。具体的には、専門知識が必要で文書化されていない作業や、承認といった責任が伴う作業は人が行います。

一方、情報収集や文書作成など、AIが比較的得意とする作業はAIエージェントに実施させます。

上記の例として挙げた業務フローでは、製品資料を高橋さんが確認して、問い合わせ回答に必要な情報を得られなかった場合、その問い合わせのカテゴリの専門家である責任者に回答を依頼する想定です。

問い合わせカテゴリの責任者はそもそも製品資料にない情報について、暗黙知である自身の知識によって回答しているのです。その知識を文章化しない限りAIエージェントにこの作業を実施させることはできません。

また、最終回答を承認する鈴木さんの作業も、AIエージェントも絶対に間違わないわけではありませんが、お客様に間違った情報を伝えるわけにはいかないので、人による承認作業は必ず必要になります。

したがって、各問い合わせカテゴリの責任者が実施している作業や確認者の鈴木さんが実施している作業はAIエージェントに遂行させるには不向きな作業といえます。

こういった作業は一旦に人に任せて、AIエージェントにはほかの作業に専念させることが、AIエージェントによる業務効率化には重要になります。

さらに、AIエージェントの機能を定義する際は、AIエージェントの実施精度やAIエージェントに実施させた際のビジネスメリット、AIエージェントが間違った結果を出力した際の影響を考慮して総合的に判断します。

 

人間よりもAIエージェントの方が得意なことは積極的にAIエージェントが実施する

先ほど、専門性が高く専門知識を参照できる文書がない作業、責任が伴い作業の精度によってビジネスに大きな影響を及ぼす作業はAIエージェントに置き換えることは難しいと説明しました。一方で人間よりもAIエージェントに任せた方がいい作業もあります。

それは、時間的なコストが高い作業です。AIエージェントの特徴として、大量の情報を数秒から数十秒で処理できる点が挙げられます。AIエージェントでよく用いられる最新の生成は一度に10万字ほどの情報を数分で処理することができます。

人が10万字資料を確認する場合、飛ばしながら読んだとしても数時間はかかります。しかも、生成AIはどれだけ利用しても利用料金がかかるだけで疲れることもなくある程度の精度を保持したままわずかな時間でタスクを実施することが可能です。

また、簡単な判断を何度もくりかえすこともAIエージェントは得意です。

人が簡単な判断を行う場合、数回の判断ならば問題なく実施できますが、数十、数百の判断を連続して行うと必ず間違えてしまいます。一方でAIはどんなに繰り返し判断を行っても毎回、初回と同じ精度で実施することができます。

したがって、大量の情報を処理する作業や、簡単な判断を何度も繰り返す作業はAIエージェントに実施させることで、大きなビジネスメリットを創出できる可能性があります。

 

業務フローの中でどこからどこまでをAIエージェントに任せるのか定義する

分析した業務フローを確認しながら、それぞれの作業をAIエージェントに任せることが適当か、作業の特性やAIエージェントに実施させた場合におけるビジネスメリットを考慮して定義します。AIエージェントに任せる業務が決まればおのずとAIエージェントが持つ機能も決めることができます。

AIエージェントは非常に汎用性が高く、様々な機能を盛り込むことができますが、今後の実装や保守、運用のコストを考えてまずは最小限の機能に絞ることをお勧めします。

冒頭で説明させていただいたようにAIエージェントのビジネス導入では、導入後も運用・保守を継続していきます。保守の一環としてAIエージェントの機能を拡張することは可能なので、最小限の機能でAIエージェントを実装して、徐々に優先度の高い機能からAIエージェントを拡張していきましょう。

最初から複雑な機能を定義してしまうと、ワークフローの定義の段階でフローが複雑になりすぎてしまいます。こうなると、実装することが困難になりそもそもAIエージェントの業務適用までたどり着けないという事態になる可能性が高いです。

具体的にAIエージェントに何を任せるか、そしてAIエージェントの機能が決まったら、そのAIエージェントを業務に適用して実際の業務がどう変化するか、AIエージェント導入後の業務フローを作成して検討します。

 

AIエージェント導入後の業務フローを作成したら、AIエージェントの開発を始める前にこの業務フローによって「本当に業務を遂行できるのか?」、「本当に業務効率化につながるのか?」、「業務の遂行精度は運用可能な水準で担保できるのか?」を検討します。もし、改善点が見つかれば前の工程に戻って修正しましょう。

問題がなければ、エージェントが実施する作業手順を、同様にフロー図で可視化しながら、ワークフローをとして定義していきます。

ただし、前例が少ない状況でのAIエージェントの構築では、得られる結果を予測することが困難なため、検討に時間を使いすぎることはせずAIエージェント開発後に運用しながら改善していく姿勢も重要です。

 

まとめ

本コラムでは、AIエージェントをビジネスに使用する手順として、まずは導入先の業務を分析することが大切である理由を解説させていただきました。

AIエージェントの開発では、AIエージェントのワークフロー(実際に実施させる具体的な作業)を正確に定義するために、通常のITシステムやAIシステムよりも詳細に現行の業務を分析する必要があり、その精度が実際にAIエージェントを業務に適用した際の導入効果に強く影響します。

自身が実施している業務を実際に分析してみると思った以上に複雑であると感じるかもしれません。また、業務分析自体がなかなか難しく、第三者の意見が必要になる場面もあると思います。

AITCでは様々なAIプロジェクトを推進してきたコンサルタントが在籍していますので、ご相談事項があればお気軽に問い合わせしていただければと思います。

 

また、今回解説しなかったAIエージェントのワークフローの定義から実装の手段は、冒頭で紹介した専用ライブラリや、ローコード・ノーコードツールの利用に限りません。

自身で実装するのではなく、様々な業務向けに構築されている既存のAIエージェントの中から、自分たちにあったAIエージェントを選択するという方法もあります。ただし、その場合でも事前の業務分析は必須です。

AITCが開発したエンタープライズ向けAIエージェントプラットフォームKnow Narrator AgentSourcingは、お客様の様々な業務を分析することによって構築されたAIエージェントが用意されており、継続してAIエージェントの種類を追加する予定になっています。ぜひともAIエージェントの導入手段としてご検討ください。

 

執筆
AITC コンサルティンググループ
徳原 光