野良AI時代の組織基盤 安心して自由に使える環境をつくろう

目次
はじめに
生成AIの活用は、いまや一部の先進企業だけのものではありません。営業、企画、管理部門、開発、カスタマーサポートなど、あらゆる現場で、生成AIはすでに日常業務の選択肢になりつつあります。企業にとって重要なのは、もはや「生成AIを使うべきかどうか」ではありません。現場が安心して、しかも安全に使える状態をどう実現するかです。
一方で、そこで多くの企業が直面しているのが、いわゆる「野良(ノラ)AI:企業の管理外で従業員がAIを利用する状態」の問題です。会社として整備した仕組みの外で、現場が個別に生成AIを使い始める。これは、現場が悪いという話ではありません。むしろ、生成AIがそれだけ便利で、現場にとって実用的であることの裏返しです。問題は、その便利さに対して、企業側の受け皿がまだ十分に整っていないことにあります。
従来のITは、会社が導入を決め、環境を整備し、ルールを定め、社員がそれを使うという流れが一般的でした。そして、その更新頻度も、一般的には企業のIT運用サイクルの中で十分に対応できるものでした。
しかし、生成AIは違います。進化のスピードがあまりにも速く、モデル性能も機能も、1カ月単位で大きく変わっていきます。企業が通常のITシステムと同じ感覚で準備を進めると、社内向けに提供された時点で、現場にとってはすでに古く感じられてしまうことさえあります。
その結果、企業が準備を整える前に現場が先に使い始めるだけでなく、企業が用意した生成AI環境があっても、より新しく使いやすい外部サービスへ利用が流れてしまう。ここに、ノラAI時代の本質があります。
野良AIとは? シャドーAIとも呼ばれる
野良AI(ノラAI)とは、生成AI活用が企業内で普及するにつれ、情報システム部門が管理できない状態で、従業員が独自に利用している生成AIツールやサービスのことです。シャドーAIとも呼ばれ、「企業の管理下になく、影でAIを利用している」という意味です。
無償で使える生成AIは企業内での利用がどんどん増えていきます。そして、このような企業も増えていっています。企業で野良AIの利用を野放しにすると、コンプライアンス面で数多くの課題が発生してきます。これを野良AI時代と呼びます。
では、具体的に企業にとってどのような課題が起きてくるのでしょうか?
野良AI時代が企業にもたらす4つの課題
ノラAI時代が企業にもたらす課題は、主に以下4つあります。
- 情報漏えいのリスク
- AI利用の不可視化の問題
- 業務品質と説明責任の問題
- AI活用が企業資産にならないという問題
以下それぞれの課題の説明と、対策を説明していきます。
野良AI時代の課題1.情報漏えいのリスク
第一に、情報漏えいのリスクです。社内資料、顧客情報、未公開の事業情報、ソースコードなどが、管理されていない外部AIサービスに入力されることで、企業にとって重大なリスクになり得ます。
生成AI基盤では、入力データがモデル学習に二次利用されない仕組みや、顧客専用環境・閉域構成などが重要になります。具体的には、顧客所有のクラウド環境への構築や閉域網構成、Microsoft Azure OpenAI Service/Google Cloud Vertex AIを活用した学習非利用ポリシー準拠の環境などです。
野良AI時代の課題2.AI利用の不可視化の問題
第二に、AI利用の不可視化の問題です。誰が、どのAIを、どの業務で、どの程度使っているのかが見えない状態では、ルールづくりも効果測定もできません。ノラAIの問題は、単に“勝手に使われている”ことだけではなく、企業が利用実態を把握できないことにあります。
利用状況、コスト、精度評価などを分析できる機能が、AI活用を統制と改善の対象に変えていく基盤としては、重要です。
野良AI時代の課題3.業務品質と説明責任の問題
第三に、業務品質と説明責任の問題です。生成AIは大きな生産性向上をもたらす一方で、もっともらしい誤答、いわゆるハルシネーションを完全には避けられません。現場が個別にAIを使っているだけでは、そのアウトプットの品質をどう担保するのか、誰が最終責任を持つのかが曖昧になります。だからこそ企業には、単なるチャットツールではなく、社内ナレッジに基づき、より精度高く実務に接続できる基盤が求められます。
顧客独自データとの連携や高精度RAG、マルチモーダル対応を通じて、汎用的なAI利用から一歩進んだ“業務で使えるAI”を目指していくことが重要です。
野良AI時代の課題4.AI活用が企業資産にならないという問題
第四に、AI活用が企業資産にならないという問題です。野良AIのままでは、ノウハウは個人の中に閉じ、プロンプトもユースケースも部署ごとに分断されます。結果として、AI活用が全社最適ではなく、局所的・属人的な取り組みにとどまってしまうのです。本来、企業が目指すべきは、個人の試行錯誤を放置することではなく、そこから得られた知見を組織の知として蓄積・再利用できる状態に変えることです。
この観点から見ると、企業に本当に必要なのは「AIツール」そのものではありません。必要なのは、AIを組織として安全に使い、可視化し、業務に定着させ、組織の知へと変えていくための“組織AI基盤”です。
野良AI時代の組織AI基盤
企業が野良AIに懸念を持つ理由は、前章で説明した4つの課題があるからです。こうした課題があるからこそ、多くの企業は「使わせること」に慎重になります。
しかし、ここで大切なのは、企業の目的は本来、現場を縛ることではないという点です。目指すべきは、現場が安心して使える状態を整え、個人の創意工夫を企業全体の価値に変えていくことです。言い換えれば、野良AI時代に必要なのは「統制の強化」よりも、自由な活用を支える組織AI基盤です。
電通総研のKnow Narrator(ノウナレーター)は、まさにそうした考え方に立つ生成AIプラットフォームです。我々はKnow Narratorを、“組織が活用業務を拡げるための生成AIプラットフォーム”として位置づけており、対話型AI、業務RAG、利用分析、AIエージェントアプリなどを組み合わせながら、組織的な生成AI活用を支える構成を取っています。
この製品の価値は、「企業がAIを管理するための仕組み」だけではありません。むしろ本質は、現場が“この環境なら使い方を気にせずに使ってよい”、“この環境なら安心できる”と思える場を企業の中につくることにあります。
たとえば、Know Narrator Chat with Vision(KNC)は、顧客企業所有のAzure専用環境上で運用され、セキュリティや権限管理、ClaudeやGeminiといった複数モデル対応、生成AIその場でプログラムを動かして作業してくれるCode Interpreterなど、業務利用に必要な機能を備えています。これは、現場に「外でこっそり使う」しかない状況を残すのではなく、社内に安心して使える選択肢を用意するということです。安心して使える選択肢があれば、現場は無理に野良AIへ流れる必要がなくなります。
また、Know Narrator Search (KNS)では、企業内の文書やナレッジを対象に、高精度な検索・回答を行うことができます。ドキュメントのテキストデータだけでなく、ドキュメントに含まれる画像・図面・表・ログなど複数形式のデータを横断的に検索・理解できる仕組みもあります。しかし、それだけでなく、参照権限を細かく設定し、利用ログを自社Azure環境内に蓄積できます。ここで重要なのは、「制限できること」以上に、必要な人が必要な情報に、安心してアクセスしながらAIを活用できることです。安全性が担保されているからこそ、現場は萎縮せずに使えます。
もう一つの重要な特徴は、KNCもKNSも、すべての情報が組織やグループに紐づいていることです。
多くの企業では、業務に関する知識やノウハウが、特定の担当者個人に強く依存してしまうことがあります。「あの人しか分からない」「その人に聞かないと進まない」といった状態は、現場では珍しいものではありません。
しかし、このような状態には大きなリスクがあります。もしその担当者が異動したり、退職した場合、業務の知識そのものが組織から失われてしまう可能性があるからです。
本来、業務知識は個人のものではなく、組織の資産であるべきものです。そのため、情報やナレッジは特定の個人に閉じるのではなく、組織やチームに紐づけて管理することが重要になります。たとえ担当者が変わったとしても、知識やノウハウは組織の中に残り続ける。そうした仕組みを作ることで、業務の継続性と組織としての強さを維持することができるのです。
さらに、Know Narrator Insight は、生成AIの利用履歴を分析し、業務・ユースケース・利用頻度・回答精度といった観点から活用状況を把握し、改善につなげる仕組みを提供しています。これも「監視」のためというより、使われ方を理解し、より使いやすく、より役立つ環境へ育てていくためのものだと考えるべきでしょう。現場が安心して自由に使える環境は、一度つくって終わりではなく、利用実態を踏まえて育てていく必要があります。
まとめ

企業に求められるのは「自由に使わせるか、厳しく制限するか」という二者択一ではありません。必要なのは、自由に使えるが、安心でもあるという状態を両立させることです。自由と安全は、対立概念ではありません。適切な組織AI基盤があれば、その両方を実現できます。
野良AI時代の企業課題は、AIをどう禁止するかではなく、どうすれば現場が安心してAIを使えるようになるかにあると考えています。現場にとって使いやすく、企業にとっても安心でき、しかも業務に深く根付いていく。そのような基盤があって初めて、生成AIは“便利な個人ツール”から“企業の力”へと変わります。
Know Narratorは、その変化を支える組織AI基盤になり得ます。セキュアな利用環境、社内ナレッジとの接続、権限設計、利用状況の分析、そして活用拡大を前提とした構成は、いずれも「現場組織に安心して自由に使ってもらうためには何が必要か」という問いに対する、現実的な答えです。
生成AIは、現場から広がります。
だからこそ企業には、その広がりを止めるのではなく、支え、個人ではなく組織として活用ノウハウを広げていくことができる基盤が必要です。 その基盤があるとき、生成AI活用は、企業変革の入口へと変わっていくのだと思います。
筆者
AITC センター長
深谷 勇次

