ACPとAP2。AIエージェントを使った商品購入プロトコル

AIエージェントの進化が変える「購買」のかたち

2025年秋、AIエージェントの世界にまた新しい潮流が生まれました。

OpenAIとGoogleという2大プレイヤーが、「AIエージェントが自ら商品を購入できるプロトコル」を相次いで発表したのです。

これらの動きは、単に「AIが買い物を支援する」というレベルを超え、AIが経済活動の主体になる未来を予感させます。

本コラムでは、この2つのプロトコル である、OpenAIの「Agentic Commerce Protocol(ACP)」と、Googleの「Agent Payments Protocol(AP2)」 の狙いや構造の違い、それらは、競合関係になるのか、共存関係になるのかを整理します。

さらに、AIブラウザ「ChatGPT Atlas」が示した、AIがWebを直接操作して購買を行う新しいUXの世界観を踏まえ、エンタープライズ視点での注目点について考察します。

「AIエージェント経由での購買が当たり前になる時代に、自社のチャネルやシステムをどう設計していくか?」という問いに向き合う方々への示唆を目的とした記事になります。

Agentic Commerce Protocol(ACP)とは

OpenAIは、2025年9月29日にACP(Agentic Commerce Protocol)を発表しました。

AIエージェントを通じて商品の発見から購入までをシームレスに行うための新しい仕組みで、Stripeと共同開発され、既存の決済インフラをそのまま活用できる点が特徴です。

たとえばChatGPT上で「このイヤホンを買いたい」と言えば、エージェントが商品の候補を提示し、チャットの流れの中でそのまま購入手続きが完了する、そんな体験を実現します。

これは単なる決済APIではなく、AIエージェントが人の代わりに行動することを前提に設計された、いわば“コマースOS”とも言える構想です。

Agent Payments Protocol(AP2)とは

一方、Googleは2025年9月16日に AP2(Agent Payments Protocol) を発表しました。

こちらは名前の通り「支払いと決済」に焦点を当てたプロトコルで、60社以上の金融・決済事業者と連携し、AIエージェントによる安全な決済と承認の仕組みを標準化することを目的としています。

特徴的なのは「Mandate(マンデート)」という概念です。

これはユーザが事前に「このAIにはこの範囲で購入を任せる」という委任を設定する仕組みで、エージェントがユーザに代わって自律的に支払いを行うことを可能にします。

たとえば「月1万円以内の日用品の購入は任せる」といった使い方です。

ACPとAP2の関係:競合?共存?

OpenAIの「ACP」とGoogleの「AP2」は、いずれも“AIエージェントが購買・支払いを行う”という点で重なっています。

そのため一見すると競合関係に見えますが、実際には狙っているレイヤーやユースケースの重心が異なります。

たとえば、ACPは「ユーザーがチャットの中で商品を見つけて購入する」という購買体験(UX)側の変革を目指しています。一方のAP2は、AIエージェントが安全に支払いを実行できるようにする決済インフラ(バックエンド)側を標準化する動きです。

こうして見ると、両者はどちらが上位/下位という関係ではなく、購買行動のフロントとバックエンドをそれぞれ担う立ち位置にあると考えられます。

比較項目ACPAP2
主な領域コマース(商品購入)決済(支払いインフラ)
中心プレイヤーOpenAI × StripeGoogle × 金融機関群
ユーザー関与チャット操作で購入委任(Mandate)による自律決済
実現イメージ「AIブラウザでそのまま買う」「AIエージェントが自動支払いする」

ACPは「買い物の入口(UX)」を革新し、AP2は「支払いの出口(決済インフラ)」を再構築する構図です。

言い換えれば、ユーザーがChatGPTやブラウザ上のエージェント(例:Atlas)で商品を探して注文する際、その裏側の決済をAP2が安全に処理する、ACPとAP2はそんな補完関係が想定されます。

ブラウザが「自律購買エージェント」になる時代へ

この動きと歩調を合わせるように、OpenAIは新しいAIブラウザ「ChatGPT Atlas」を2025年10月21日に発表しました。

Atlasは、従来の人が検索とクリックで行うブラウジング体験を超え、AIエージェントがWebページを理解し、操作し、行動するという新しいパラダイムを提示しています。

ユーザーが「この製品を比較して」「最安値で買って」と指示すれば、Atlas内のAIエージェントが自らWebを探索し、条件に合う商品を見つけ、購入までを実行できる、そんな世界が現実味を帯びてきました。

このブラウザが行動主体となる進化には、ACPやAP2のようなプロトコルが存在することで、効率的かつ安全に利用することが可能になります。

すなわち、AtlasなどのAIブラウザ(行動環境) × ACP/AP2(取引プロトコル) という組み合わせが、今後のAIエージェント経済圏の基盤になってくると考えられます。

エンタープライズ視点での注目点

企業にとって、AIエージェントによる購買プロトコル(ACP・AP2)の登場は、次のような変化が必要になってきます。

販売チャネルの再定義

顧客が「AIエージェント経由で買う」世界を前提に考えると、製品名・価格・在庫・配送条件などをエージェントが読み取れる形式(構造化データやAPI)で公開することが不可欠になります。

人間が画面を見てクリックする代わりに、AIがデータを直接取得して比較・提案する、そんな購買の自動化が進むことで、企業の「商品データの見せ方」が根本的に変わります。

エージェントが“会計できる”仕組みの整備

今後は、AIエージェントが直接企業のEC基盤にアクセスし、購入手続きを完了させる時代になります。

このとき必要になるのが、わかりやすく例えると、AIが人の代わりに「レジで会計」できる仕組みです。

具体的には、在庫の確認・注文確定・支払い依頼といった情報を安全に受け渡すための標準化された購買インターフェースを整えることです。

これを一般に「チェックアウトAPI(Checkout API)」と呼びます。

つまり、チェックアウトAPIとは、AIが人の代わりに「レジで会計」するためのデジタル窓口のようなものです。

ACPやAP2は、このやり取りを共通仕様として定義し、どのAIエージェントからでも安全・確実に取引できるようにするためのプロトコルと位置づけられます。

Mandate(購買委任)ガバナンスの新設

AIエージェントに購買を委任する場合、「どの範囲まで任せるのか」「誰が承認し、どう監査するのか」といった社内ルールと責任設計が新しい課題となります。

特にAP2が導入する「Mandate(購買委任)」の概念は、企業の承認プロセスや購買ガバナンスを見直す契機になるでしょう。

まとめ

AIエージェントは、いよいよ「検索」や「対話」を超え、「購買」「決済」といったリアルな行動に踏み込み始めました。

2025年秋のACP・AP2・ChatGPT Atlasの登場は、まさにその転換点を象徴する出来事です。

AIがWebを理解し、商品を比較し、購入・支払いまで自律的に行う、その裏で必要な技術となる、プロトコル・API・ガバナンスという新しい仕組みが生まれつつあります。

今後、企業システムやEC基盤、FinTech領域も「AIが主体となる購買」を前提とした再設計が求められるでしょう。

AITCとしても、このような変化を継続的に追いかけていきます。

筆者
AITC センター長
深谷 勇次