RAGの次の波-マルチRAG AIエージェント

 RAGからマルチモーダルRAGへ、そしてAIエージェント時代へ

生成AIの企業活用は、この2年で段階的な進化を遂げてきました。 

第一段階は、社内文書やナレッジを生成AIが活用できるようにする RAG(Retrieval-Augmented Generation)です。

これによって、企業は社内に散在する膨大な情報資産、マニュアル、報告書、議事録、FAQ、契約書などを、検索ではなく自然言語で直接活用できるようになりました。従来のキーワード検索では到達できなかった“知識の文脈”をAIが理解し、ユーザーは質問するだけで必要な情報を瞬時に得られるようになったのです。

その次の段階では、テキストだけでなく、画像・表・音声・動画など多様な情報を統合するマルチモーダルRAGが登場しました。

これによって、企業内の非構造データである、図面やスライド資料内の表やグラフデータなども、  生成AIが横断的に理解・活用できるようになりました。 テキスト情報だけでは捉えきれなかった現場知や専門的ノウハウまでもが検索対象となり、 知識活用の幅は一気に広がりを見せています。

たとえば、設計部門の解析データと製造部門の実績データ、営業資料のグラフデータを同時に参照しながら、「製品AのXX向けの資料を作成して」と質問すれば、AIがそれぞれの情報源を理解し、文脈をつないで答えを生成する、そんな“マルチモーダルな知識検索”が実現しつつあります。

しかし、RAGやマルチモーダルRAGが増え、実際の運用が進むにつれて、以下のような新たな課題も生まれています。

  • RAGがたくさんあって、どこに聞けばよいかわからない→ 選択が大変
  • 同じ質問を異なるRAGに投げ直す必要がある → 効率が低下
  • ナレッジが部門や用途ごとに分散している → 一元的な検索が難しい
  • 複数RAGを横断的に参照できない → 横断知見を出せない

これらは、RAGが導入され、運用後に待っている「RAGの壁」とも言えます。

この壁を越えるための鍵は何でしょうか?

この課題を解決し、複数RAGを束ねて知識を一元的に活用する次のステップこそ、マルチRAG AIエージェントなのです。

複数RAGを束ねる「マルチRAG AIエージェント」というアプローチ

「AIエージェント」と聞くと、しばしば人間のように意思を持ち、自律的に判断や行動を行う存在を思い浮かべるかもしれません。

それはそれで重要ですが、RAGの課題を解決し、企業が現実的に最初に取り組むべきAIエージェントの形は、そうした“自律AI”ではなく、既存の生成AI基盤やRAGを横断的に結びつける知識ハブとしてのエージェントです。

それが、複数のRAGを束ねて機能させる「マルチRAG AIエージェント」です。

このエージェントは、企業内で個別に構築・運用されているRAG群を統合し、ユーザーからの質問に応じて、最も適したRAGを自動的に選択・呼び出し・連携させる役割を担います。 

さらに、各RAGから得られた回答や知見を統合・再構成し、 “一つの窓口”から最適化された答えを返す仕組みを持ちます。

「マルチRAG AIエージェント」の主な機能と特徴は次の通りです

1. 複数RAGをまとめて管理できる

社内のあちこちで使われているRAG(ナレッジ検索システム)を一つの仕組みでつなぎ、まとめて扱えるようにします。 

これにより、情報が部署ごとに分断されることなく、社内全体を見渡した検索が可能になります。

2. 質問内容に合わせて自動で最適なRAGを選ぶ

ユーザーが質問すると、その内容や意図をAIが理解し、最もふさわしいRAGを自動で選んで回答を取りに行きます。 

どのRAGを使えばいいかを人が判断する必要はありません。

3. 複数RAGの答えをまとめて整理する

もし複数のRAGから回答が得られた場合も、AIが内容をまとめ、重複をなくし、分かりやすく要約してくれます。

必要な情報を一つの答えとして受け取れるため、確認や比較の手間が大幅に減ります。

4. ユーザーにとって“ひとつの窓口”になる

利用者は、どのRAGにアクセスしているのかを意識する必要がありません。

まるで一人のAIアシスタントに話しかけるように、自然に社内全体の知識を引き出せます。

このアプローチによって、企業は“RAGの乱立”による分断を解消し、知識活用の生産性を飛躍的に向上させることができます。

言い換えれば、マルチRAG AIエージェントは、企業のRAG群を束ねる知識オーケストレーターとして、企業の生成AI活用をより加速させる存在となるのです。

“つながるRAG”が企業知を変える

これまでのRAGは、「個々の知識をAIで活用できるようにする」ことに焦点が当たっていました。

しかし、RAGが増え、マルチモーダル化が進む現在、企業が直面している課題は「どうつなぐか」「どう統合するか」という新たなフェーズに移行しています。

マルチRAG AIエージェントは、まさにこの課題に応える新しいアプローチです。部門ごとに構築されたRAG同士を連携させ、知識を横断的に活用することで、企業全体の“知的生産性”を飛躍的に高めることができます。

そして、この「複数RAGを束ねる」アプローチを実現するための基盤として、電通総研が開発した「Know Narrator AgentSourcing(ノウ ナレーター エージェントソーシング)」の「マルチRAG AIエージェント機能」は、非常に有効な選択肢のひとつです。 

以下、先日公開したニュースの内容になります。

このニュースの挿入絵を元に具体的な説明をします。

中央にある青いボックスが「マルチRAG AIエージェント」です。
このエージェントは、社内のさまざまな知識基盤――たとえば人事給与規定、FAQ、マニュアル、営業資料――を担当する個別のRAG(が連携しながら、ユーザーの質問に最適な回答を導き出します。

ユーザーは、上部の「Know Narrator」を通じて自然な言葉で質問を投げかけます。するとマルチRAG AIエージェントが内容を理解し、どのRAGが答えるのに最適かを判断・選択して情報を収集し、整理・統合したうえで最終的な回答を生成します。

この新サービスは、社内外に散在するRAGを安全に連携させ、AIエージェント同士が協働して最適な回答を導き出す「マルチRAG AIエージェント」機能をノンコーディングで実現します。 RAGの元は、Know Narrator Search(ノウ ナレーター サーチ)のため、マルチモーダル対応済みのRAGを利用できますので、「マルチモーダルのマルチRAG AIエージェント」が実現できます。

企業が次に目指すべきは、個々のRAGの精度を高め、利用を広げる活動を継続させた上で、これら実際に業務で使えるRAGをつなぎ、企業全体で知識を循環させる仕組みを持つことです。

マルチRAG AIエージェントは、その中心的な役割を担う存在になるでしょう。

筆者
AITC センター長
深谷 勇次