第40回人工知能学会全国大会(JSAI2026) 参加レポート ― 人工知能を再考する

こんにちは、AIソリューションチームの大沢直史です。
昨年に引き続き、電通総研は人工知能学会全国大会(第40回)(以下、JSAI2026)に参加しました。今年で5年連続の参加です。今年度は人工知能学会40周年という記念すべき大会で、参加者数もプログラムもとても大きな規模で開催されました。
AITCは最新の研究動向や取り組みをキャッチアップすることを目的として本年度も参加いたしました。
本記事では発表やブース、JSAI全体の様子、そして参加して感じた点についてお伝えします。
JSAI2026について

JSAIは日本における人工知能分野の代表的な学術イベントであり、年に一度開催されます。研究者だけでなく、企業の技術者や学生、官公庁の関係者まで、さまざまな立場の人々が集い、最先端のAI技術、社会実装、倫理的課題などについて活発な議論が交わされます。
全国大会では、以下のような多彩なプログラムが展開されます。
- 口頭発表およびポスター発表(研究成果の共有)
- 招待講演・チュートリアル(第一線の研究者や実務家による講演)
- インタラクティブセッション(参加者同士の議論)
- スポンサーブースや企業展示(産業界との接点)
また本年度は人工知能学会の創立40周年記念ということもあり、上記企画に追加して記念企画が開催されました。
今年の開催地は群馬県高崎市のGメッセ群馬で、例年よりも1日多い6月8日から12日までの5日間の日程で開催されました。
開催初日から過去最大の参加者数を記録しており、AIが今日の社会基盤を支える重要な技術として注目されていることの表れであると感じました。
研究発表
こちらでは、一般セッションやオーガナイズドセッション・ポスター発表を含めた研究発表の中から、参加メンバがいくつかピックアップして紹介します。
生成AIを活用した初心者向け組立作業習熟支援(本田技研工業株式会社)
プログラム:https://pub.confit.atlas.jp/ja/event/jsai2026/presentation/1I3-GS-10f-04
こちらは本田技研工業様の発表で、製造現場における技能伝承をテーマとした研究です。
モーションキャプチャで取得した熟練者と初心者の動作データを比較し、その差分をLLMが解釈して改善提案としてフィードバックします。特徴的なのは、専用の学習モデルを構築するのではなく、DDTWによる時系列解析とLLMを組み合わせることで、少量データでも運用可能な構成を採用している点です。熟練者2名・初心者1名という比較的小規模なデータからでも、熟練者の指摘と近い内容の改善提案が生成できたと報告されています。
個人的に興味深かったのは、AIエージェントの出力が「人間の熟練者がどこを見ているか」をかなり再現できている点でした。また実際の製造現場を持つ企業様がここまで踏み込んだ実証を行っている点も印象的でした。モーションキャプチャによるデータ取得、時系列解析、コンテキストエンジニアリング、マルチエージェントの構成まで含めて一連のシステムとして構築されており、「生成AIをどう現場課題に適用するか」を真剣に検討・検証した取り組みだと感じます。AIそのものの性能向上というよりも、現場に蓄積された技能をどのように形式知化し、再利用可能にするかという観点で非常に参考になる研究でした。本田技研工業様はこの発表外にも業務にAIを活用した取り組みをいくつか紹介しており、製造現場での積極的なAIの活用がなされている印象を大きく受けました。
RAGの精度向上のためのキーワード抽出と情報源別ランキングによる段階的情報絞り込み
(株式会社日立製作所、株式会社日立パワーソリューションズ)
プログラム:https://pub.confit.atlas.jp/ja/event/jsai2026/presentation/4Yin-A-26
こちらはポスター発表で日立製作所様が紹介されていた、インフラ設備の保守業務において必要となる製品バージョンなどのメタデータによる絞り込みと、検索結果の網羅性の両方を制御するためのRAG改善手法です。
提案手法では、検索インデックスの作成時にはドキュメント内のテキストからメタデータ(製品名やバージョンなど)を抽出し、ドキュメントごとにメタデータを付与します。
検索時には次の3ステップを実行しています。
- LLMでユーザーのクエリ文から、記事の出典となるSourceと、話題の中心となる語句であるTopic(例:エラーコード)それぞれのキーワードを抽出
- Source(例:マニュアル名)のキーワードを用いて、文書の属性に関するメタデータに基づき、文書候補集合の絞り込み
- メタデータの種類ごとに上位文書を選択し、LLMに文脈として与えて回答
提案手法ではメタデータごとに上位文書を選択することで、参考にする文書の網羅性を確保しているようです。またこのときランキングスコアには、キーワード検索とベクトル検索を組み合わせたハイブリッドスコアに加えて、Topicキーワードの出現回数を集計して加算したものを改良型ハイブリッド検索スコアとして適用しています。
この手法は実際に問い合わせエージェントとして運用されているとのことで、実用性の高さも感じられました。
生成AIチャットの低利用頻度層における利用判断に関わる要因構造の探索(沖電気工業株式会社)
プログラム:https://pub.confit.atlas.jp/ja/event/jsai2026/presentation/1L3-GS-9a-03
こちらは沖電気工業様による発表で、企業内における生成AIチャットの利用促進をテーマとした研究です。生成AIの導入が進む一方で、同じ環境下でも利用頻度には大きな差が生じていることに着目し、利用頻度の低い従業員へのインタビューを通じて、その要因構造を分析しています。その結果、業務レベルの成果を得るための手間や不確実性といった「活用コストの認知」に加え、利用ルールへの理解不足や周囲の利用状況が見えないことによる「規範意識からくる不安」が、利用を抑制する主要因として整理されていました。また、活用事例やテンプレートの共有は利用のきっかけになる一方、それだけでは継続利用にはつながりにくいことも示されています。
個人的には、多くの企業が生成AIの全社展開に取り組む中で実際の利用実態をここまで丁寧に分析している点が非常に印象的でした。生成AI活用の議論はモデル性能やユースケースに目が向きがちですが、こちらの発表はなぜ使われないのかという組織的・心理的な要因を明らかにしており、社内活用を推進する企業にとって参考になる知見が多いと感じました。特に、ガイドライン整備や活用事例の共有、マネジメント層による利用推奨といった施策の重要性を、実際の利用者の声から導いている点に実践的な価値があると思います。
チュートリアル
続いて大沢が参加したチュートリアルをご紹介します。
人間中心の意思決定支援AI(東京大学 馬場雪乃先生)
意思決定においてAIの判断をどう受け止め、活用するかについて、いくつかの研究を取り上げながら、AIの判断が人間の意思決定にどう影響を与えるのかについての講演がありました。
生成AIやAIエージェントの普及により、人間とAIが協働しながら意思決定することは特別なものではなくなりました。私も日々、検索、要約、分析、提案といった形でAIの助言を受けながら仕事を進めています。このチュートリアルで紹介された研究群は、「AIの精度が高いこと」と「人間とAIが一緒に良い判断をできること」は別問題であることを示していました。
特に印象的だったのは、人はAIが正しいときにその助言を採用できないこともあれば、逆にAIが誤っているときに過度に信頼してしまうこともあるという点です。チュートリアルでは「AIへの適切な依存」をテーマに、AIの説明文や確信度の表示、複数のAIによる助言、さらには人間とAIの対話的な議論まで、多様な研究事例が紹介されました。
スポンサーブース・企業展示
今年はスポンサーブースの数が昨年よりも増え、159もの企業が出展していました。

スポンサー企業は研究開発をメインに行う研究所だけでなく、いわゆるユーザー企業からAIベンチャー、SIer・コンサル系企業まで幅広く出展しており、AI分野に対する産業界の熱量の高さがよく分かります。
今回、スポンサーブースを見て印象的だったのは、昨年までは「AIエージェント」など先進的なAI活用そのものを訴求している企業が多かったのに対し、今年は「どの分野で、どんなユースケースにAIを活用しているのか」といった形で具体的な見せ方が増えていたことです。
AI技術そのものは徐々にコモディティ化が進みつつあり、各社の関心は「AIを使っているか」ではなく、「自社の事業領域をAIでどう伸ばすか」に移ってきているように感じました。
その中で、実運用に耐えうるAI活用へのニーズも高まっているように見えます。本格的な運用を見据えて、GPUリソースなどのインフラレイヤーをサービスメニューに組み込む企業も増えている印象でした。ロボットなどのフィジカルAI領域の展示も多く見られ、AIを単なるデモやPoCにとどめるのではなく、各社のコアドメインにどう組み込み、実際の業務やサービスに接続していくかを模索している段階にあるのだと感じます。
終わりに ― 人工知能を再考する
本年度のJSAIは、人工知能学会創立40周年という節目の大会でした。
会場では生成AI、AIエージェント、ロボティクス、意思決定支援、マルチモーダルAIなど、多岐にわたる研究発表や議論が行われていました。その中で私が特に印象を受けたのは、「AIの性能を高めること」だけでなく、「AIと人間がどのように協働するか」をテーマとした研究が数多く見られたことです。
生成AIの普及によって、私たちは日常的にAIへ相談し、要約や分析、提案を受ける時代を迎えています。一方で、チュートリアルにもあったようにAIが高い性能を持つことと人間とAIが協働して良い成果を生み出せることは必ずしも同じではありません。
JSAI2026では、最先端の技術研究だけでなく、人間とAIのより良い関係性を模索する研究や実践が数多く見られました。AIの民主化が加速し、社会インフラの一部となっている今、我々に求められているのはAIを単なるツールとして導入することではなく、その特性を理解した上で、人間との役割分担や協働のあり方を設計していくことなのかもしれないと思いました。
今回のJSAIで得られた知見を参考にしながら、私自身もAIの社会実装に携わる立場として、人とAIがともに価値を生み出せる仕組みについて考え続けていきたいと思います。
AITCは生成AIに関して積極的に製品開発・技術支援をしています。ご相談を希望される方は、お気軽にこちらのお問い合わせフォームからご連絡ください。
執筆
AIソリューショングループ
大沢直史

