AIエージェントは、導入して終わりではない。Gartner「Vendor FDE構築AIの70%が放棄」予測から考える、企業が持つべき3つの主導権

はじめに

AITCセンター長の深谷です。

2026年9月29日、Gartnerから興味深い予測が発表されました。

Gartner Predicts 70% of Enterprises Will Abandon Agentic AI Built by Vendor Forward-Deployed Engineering by 2028

2028年までに、ベンダーのフォワードデプロイドエンジニアリング(FDE: Forward-Deployed Engineering)によって構築されたAIエージェントを、企業の70%が放棄するというのです。

ここでいうVendor FDEとは、ベンダーのエンジニアが顧客と直接協働し、ソリューションの構築と導入を行うモデルです。

Vendor FDE is a model in which vendor engineers work directly with customers to build and deploy solutions.

そのようなアプローチで開発されたAIエージェントを、多くの企業が使わなくなるかもしれない、とGartnerは言及しています。

Gartnerが挙げている大きな理由は、コストの高騰と、導入企業がAIエージェントを自力で進化させられないことです。

ここで注意したいのは、今回の70%という数字は、すべてのAIエージェントを対象としたものではなく、ベンダーFDEによって構築されたAIエージェントに関する将来予測だということです。また、現在70%の企業が放棄しているという実績でもありません。

私は、この予測で特に注目すべきなのは70%という数字そのものよりも、「企業が自らAIエージェントを進化させられない」という問題だと思っています。

最近のコラムでは、RAGの回答品質、複数の業務ナレッジの活用、さらに企業の知識を育て続けるナレッジエンジニアの重要性について書いてきました。

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今回のGartnerの予測は、これまで私がお伝えしてきた内容とも深く関係していると感じています。

今回は少し視点を広げて、ユーザー企業がAIエージェントを導入して終わりにしないために、何を自社に残し、何を育てていく必要があるのかを考えてみたいと思います。

Gartnerが問題視しているのは、AIエージェントの技術だけではない

まず、Gartnerの発表をもう少し見てみましょう。

Gartnerは、FDE案件が技術的な問題よりも先に、プロジェクトの構造的な問題によって失敗することが多いと指摘しています。

例えば、ベンダーの技術者が顧客の業務を理解して、優秀なAIエージェントを開発したとします。導入当初は非常に便利で、業務効率も向上するかもしれません。しかし、実際に運用を始めると、業務ルールの変更、新しい製品への対応、新しいシステムとの連携など、さまざまな改善が必要になります。

そのたびにベンダーへ追加開発を依頼しなければならないとしたら、どうでしょうか。AIエージェントを利用する業務が増えるほど、追加開発の費用や時間がかかるようになります。

さらに問題なのは、開発した仕組みの詳細をベンダーしか理解していない場合です。

企業の担当者は、AIエージェントを利用することはできても、自分たちで改善したり、新しい業務に展開したりすることが難しくなってしまいます。

Gartnerは、こうした問題を避けるために、FDE案件では契約前から知識移転、知的財産の所有権、運用責任、出口戦略などを明確にすべきだとしています。そして、導入後に企業自身がソリューションを管理し、最適化し、拡張できることを成功の重要な条件として位置付けています。

ここは、非常に重要な指摘だと思います。

もちろん、FDEや外部ベンダーを活用することが悪いわけではありません。企業がすべてのAI技術を自社で開発・保守する必要もないでしょう。専門的な技術力を持ったベンダーと協力し、短期間でAIエージェントを構築することには大きな価値があります。

ただし、AIエージェントの開発を外部に任せることと、AIエージェントを改善し続ける主導権まで外部に任せることは、分けて考える必要があります。

では、企業は具体的に何を自分たちで管理すべきなのでしょうか。

AIエージェントの「頭脳」と「企業の知識」を分けて考える

私はこれまでのコラムでも、企業のAI活用において、AIエージェントのフロントと、企業固有のナレッジ基盤を分けて設計することの重要性をお伝えしてきました。

例えば、ChatGPT、Claude、Microsoft Copilotなど、さまざまなAIが利用されています。今後も新しいモデルが登場し、AIエージェントの能力は進化していくでしょう。

そのときに、企業が利用するAIを一つに固定してしまう必要があるのでしょうか。

私は、必ずしもそうではないと思っています。

社員が業務に適したAIを選択し、新しいAIが登場すれば必要に応じて切り替えられるようにする。その一方で、企業固有の知識は、特定のAIフロントだけに閉じ込めないようにすることが重要です。

企業の中には、さまざまな知識が存在します。

  • 設計標準や過去の設計判断
  • 製造や品質に関するノウハウ
  • 顧客との取引履歴や提案の経験
  • 業務ルールや判断基準
  • 過去の不具合とその対策
  • 熟練者が持っている経験や暗黙知

こうした情報こそ、その企業が長年の事業活動の中で蓄積してきた、企業固有の知識資産です。さらに、文書だけでなく、PLM、ERP、CRMなどの業務システムに蓄積された最新のデータも重要になります。例えば、企業固有の文書をRAGによって検索し、業務システムの情報をMCPやAPIなどを通じて取得する。それらを共通の仕組みとして整備しておけば、複数のAIエージェントが、必要な情報を適切に利用する構成を考えられます。

ただし、AIフロントを変更すれば何もせずに同じ仕組みを使える、というわけではありません。接続方式や認証、利用できる機能、セキュリティなどはAI製品ごとに異なり、接続先との適合性確認や検証が必要です。

それでも、企業固有の知識を特定のAIアプリケーションから切り離して管理することには、大きな意味があります。

AIそのものは必要に応じて選択・変更する。しかし、企業の知識は自社の資産として蓄積し続ける。

私は、これがこれからの企業AI活用における重要な考え方になると思っています。

企業が持つべき「3つの主導権」とは

では、AIエージェントを導入して終わりにしないために、企業は何を持つべきなのでしょうか。

私は、大きく3つの主導権が必要だと考えています。なお、これはGartnerが提示した分類ではなく、今回の予測を踏まえた私自身の整理です。

主導権企業が自らできるようにすること
① 知識の主導権自社固有の知識を蓄積し、更新し、品質を管理する
② 接続の主導権特定のAIフロントに依存せず、企業の知識を適切に利用できるようにする
③ 改善の主導権AIの回答や業務成果を評価し、継続的に改善する

① 知識の主導権:企業固有の知識を、自分たちで育てる

最初は、知識の主導権です。

AIエージェントが優秀でも、参照する企業の情報が古かったり、不足していたりすれば、業務で正しく判断することはできません。

例えば、社内の品質管理AIエージェントを考えてみましょう。ある製品で不具合が発生し、AIエージェントが過去の類似トラブルや設計資料を検索して、原因候補や確認事項を整理してくれたとします。しかし、実際の調査を進めていくと、過去に類似した不具合が発生していたにもかかわらず、その際の判断理由や対策の適用条件が十分に記録されていないことに気付くかもしれません。このとき、単にAIの回答が不十分だったと評価するだけでは、問題は解決しません。

業務担当者が、不足している情報を追加し、過去の判断理由や対策を、新しい知識として蓄積していく必要があります。

ここで重要なのは、AIとの会話履歴を大量に保存すること自体が目的ではないということです。

AIとの対話や業務の実施を通じて、何の情報が足りなかったのか、どの判断基準が明確でなかったのかを発見する。そして、足りない情報を業務担当者が追加し、正しい内容として確認した上で、企業の知識として残す。この活動を継続していかなければ、AIを何年利用しても、企業の知識そのものは十分に増えていきません。

このような知識の整備・改善を技術面から支える人材として、以前のコラムでは「ナレッジエンジニア」を紹介しました。

業務担当者が持っている知識と、ナレッジエンジニアの技術を組み合わせ、企業の知識をAIが利用できる状態に育て続ける。

そのための更新権限、品質確認、承認プロセス、責任者を企業自身が持つことが重要です。

② 接続の主導権:どのAIでも自社の知識を利用できるようにする

2つ目は、接続の主導権です。

例えば、ある企業が特定のAIエージェントを導入し、その製品独自の仕組みの中に、業務データや業務ルールを大量に蓄積したとします。導入したAIエージェントを使い続けるのであれば、当面は問題ないかもしれません。

しかし、新しいAIエージェントが登場したり、現在の製品の価格や提供条件が変わったりした場合はどうでしょうか。別のAIに切り替えようとしても、企業固有の知識や接続設定、業務ロジックが既存製品に強く依存していれば、移行は簡単ではありません。

そこで重要になるのが、企業のナレッジ基盤と、AIエージェントを分けて考えるアーキテクチャです。

企業の文書やナレッジを共通基盤で管理し、MCPやAPIなどの接続方式を通じて、必要なAIエージェントが利用する。業務システムに存在する最新情報についても、適切な連携インターフェースを整備する。このような設計によって、AIエージェントを変更する際にも、企業が蓄積してきた知識を再利用しやすくなります。

もっとも、共通ナレッジ基盤を導入するだけでは不充分です。データの移行性、接続インターフェースの標準化、利用者の認証・認可、監査、運用上の責任分担なども重要です。

特に企業では、誰でもすべてのデータをAIに渡してよいわけではありません。

営業部門の情報、設計部門の情報、人事部門の情報など、利用者の権限に応じて参照できる情報を制御する必要があります。

重要なのは、単に「どのAIからでもつながる」ことではなく、「誰が、どのAIから、どの企業情報を、どの条件で利用できるか」を企業自身が管理できることです。

③ 改善の主導権――AIエージェントを自分たちで進化させる

そして3つ目が、改善の主導権です。

私は、今回のGartnerの予測に対して、ここが特に重要なポイントだと考えています。

AIエージェントは、一度開発すれば完成するものではありません。

業務ルールは変わりますし、新しい製品やサービスも生まれます。組織変更によって業務の流れが変わることもあります。

当然、AIエージェントにも継続的な改善が必要になります。

そこで、改善要求が出るたびに、すべてベンダーに開発を依頼しなければならないとしたらどうでしょうか。

もちろん、専門的な機能開発や高度な技術対応を外部ベンダーに依頼することは、今後も必要でしょう。しかし、すべての改善を外部に依存する必要はないはずです。

例えば、AIエージェントが正しく回答できなかったとき、その原因はいろいろ考えられます。

  • そもそも必要な知識が登録されていない
  • 登録されている情報が古い
  • 適切な情報を検索できていない
  • 複数の情報を組み合わせる処理が不十分
  • 業務ルールや判断条件の定義が不足している
  • AIエージェントの処理手順やプロンプトに問題がある

原因が情報不足であれば、業務担当者が情報を追加することで改善できます。検索設定の問題であれば、ナレッジエンジニアやAI運用担当者が対応できます。一方で、エージェントの処理や外部システムとの連携そのものに問題があれば、AIエンジニアによる改修が必要になるでしょう。

重要なのは、企業自身が問題を発見し、原因を切り分け、適切な担当者が改善できる仕組みを持つことです。

そして、改善した結果、本当に業務品質が上がったのかを検証する。

AIの回答精度だけでなく、作業時間の短縮、手戻りの削減、判断品質の向上といった業務成果を確認していく必要があります。

私は、これからの企業AIでは、AIエージェントそのものの開発力に加えて、このような改善サイクルを組織の中に作ることが重要になると思っています。

例えば、製造業の品質対応AIエージェントで考えてみる

3つの主導権が、実際の業務でどのように関係するのかを考えてみましょう。

ある製造業の企業が、品質不具合の原因調査を支援するAIエージェントを導入したとします。AIエージェントは、過去の品質トラブル、設計標準、製品仕様、検査結果などを参照し、原因候補や確認すべき項目を整理します。さらに、品質管理システムやPLMなどにも接続して、対象製品の最新情報を取得できるとします。導入当初は、ベンダーと一緒にAIエージェントを開発してもよいでしょう。

問題は、その後です。

例えば、新しい製品で今までにない不具合が発生した場合、AIエージェントは十分な回答ができないかもしれません。ここで3つの主導権を機能させます。

① 知識の主導権

品質担当者が、不足していた不具合情報、原因分析、対策の適用条件などを追加します。必要に応じて設計部門や製造部門も情報を補足します。

② 接続の主導権

追加した知識は共通のナレッジ基盤で管理します。品質部門が利用するAIエージェントだけでなく、設計部門のAIエージェントからも、権限に応じて利用できるようにします。

③ 改善の主導権

今回、なぜAIが十分に回答できなかったのかを分析し、必要なデータや検索設定、エージェントの処理を改善します。さらに、以前は回答できなかった質問に適切に回答できるようになったかを検証します。

このような活動が継続できれば、新しい不具合への対応を通じて、企業の知識は少しずつ増えていきます。そして、その知識は一つのAIエージェントだけでなく、設計、製造、品質など、別の部門でも活用できるようになります。

ここで企業の資産になっているのは、AIエージェントのプログラムだけではありません。

業務の中で蓄積された企業固有の知識と、その知識をAIが利用できる状態に整え、継続的に改善する仕組みそのものです。

これこそ、導入して終わりではないAIエージェントの姿ではないでしょうか。

AIエージェントの成功を、何で測るのか

ここまで考えると、もう一つ重要な問題が見えてきます。

AIエージェントの導入が成功したかどうかを、何で評価すればよいのでしょうか。

従来は、システムを予定どおりリリースできたか、要件を満たしているかといった評価が中心だったかもしれません。

もちろん、それらは今後も必要です。

しかし、AIエージェントでは、それだけでは十分ではないと思います。例えば、私は次のような指標も重要になると考えています。

評価指標確認したいこと
業務成果AIエージェントによって、実際の業務品質や生産性が改善しているか
社内改善完結率改善要求のうち、企業自身で対応できたものはどれくらいあるか
改善リードタイム問題の発見から改善反映まで、どれくらいの時間がかかっているか
ナレッジの再利用蓄積した知識を別の業務やAIエージェントでも利用できているか

これらはGartnerが提示したKPIではなく、今回の問題提起を踏まえた私自身の提案です。

もちろん、すべての改修を自社で完結させることが目的ではありません。専門性や費用対効果を踏まえて、外部ベンダーに任せるべき部分もあります。

大切なのは、改善するための選択肢と判断能力を企業自身が持っていることです。

AIエージェントを何人が使ったか、何回質問したかだけでなく、AIエージェントを使うことで企業の業務能力が向上し、その改善を自分たちで続けられる状態になっているかを評価する。

今後は、そうした視点が評価指標として重要ではないでしょうか。

Know Narratorで目指している、企業AIの姿

ここまでの話は、私たち電通総研が開発しているKnow Narratorの方向性とも深く関係しています。

私は以前のコラムでも、Know Narratorを単なるRAG製品としてではなく、企業のナレッジエンジニアリングを支えるソリューションとして提供していると書きました。

Know Narratorでは、Excel、PowerPoint、PDFなどに含まれる情報をマルチモーダルRAGで活用する仕組みを提供しています。

また、マルチ業務ナレッジエージェントによって、質問や用途に応じて必要な業務ナレッジを選択し、複数の情報を横断して回答することができます。

さらに、MCPを利用するコネクターエージェントなどによって、外部の業務システムとも連携するアプローチを用意しています。

そして、こうした企業のナレッジ基盤を、ChatGPT WorkやClaude Coworkなどの外部AIエージェントとも組み合わせて利用する構成を考えられます。実際に、こうした組み合わせでKnow Narratorを活用いただいているお客様もいらっしゃいます。

ここで重要なのは、すべてをKnow Narratorだけで完結させるという考え方ではないことです。

社員が普段使っているAIエージェントをフロントとして活用しながら、企業固有の知識については、共通のKnow Narratorの業務ナレッジ基盤で管理する。そして、業務担当者が不足するデータを追加し、ナレッジエンジニアが利用しやすい構造へ整え、AI運用担当者が回答や業務成果を評価して改善する。このような仕組みを、企業自身が継続的に運用できる状態を目指していきたいと考えています。

また、システム構成に加えて、知識の管理責任、運用体制、改善プロセス、業務部門とIT部門の役割分担まで設計する必要があります。

それらを含めて、企業のAI活用基盤をどのように作り、育てていくか。

私たち電通総研が、お客様と一緒に取り組んでいきたいテーマでもあります。

AIエージェントを導入する企業から、育て続けられる企業へ

今回は、Gartnerの「2028年までに企業の70%がFDE構築AIエージェントを放棄する」という記事をきっかけに、企業がAIエージェントを導入して終わりにしないために何が必要なのかを考えてきました。

私は、AIエージェントの開発そのものを外部に任せることは、決して悪いことではないと思っています。

むしろ、優れた技術を持つベンダーと協力し、短期間で実用的なAIエージェントを導入することには、大きな価値があります。

しかし、そのAIエージェントが参照する企業固有の知識を誰が管理するのか。新しい知識を誰が追加するのか。業務の変化に合わせて、誰が改善を続けるのか。そこまで外部ベンダーに依存してしまうと、AIエージェントを導入した企業自身に、改善し続ける能力が十分に残らないかもしれません。

だからこそ、私は今回、3つの主導権を提案しました。

① 知識の主導権:自社固有の知識を、自分たちで育てること。

② 接続の主導権:特定のAIエージェントに閉じ込められず、自社の知識を利用できること。

③ 改善の主導権:AIエージェントを、自分たちで評価し、進化させ続けられること。

生成AIは、これからも進化していくでしょう。GPTやClaudeをはじめとするAIの選択肢も、さらに増えていくと思います。

しかし、その進化に合わせて、企業の知識まで自動的に増えていくわけではありません。

どのAIを利用するかは、柔軟に選択すればよい。その一方で、自社固有の知識を蓄積し、AIが利用できる状態に整え、継続的に育てていく。そして、導入したAIエージェントを、自分たちで評価し、改善し、進化させられるようにする。

AIエージェントを使い続けられる企業と、使わなくなる企業。その違いは、AIの性能だけではなく、AIを育て続けられる組織の力にも表れるのではないでしょうか。

私たち電通総研では、Know NarratorをはじめとしたAI活用基盤の提供だけでなく、企業固有の知識をどのように蓄積・活用し、AIエージェントの継続的な改善につなげていくかという仕組みづくりも、お客様と一緒に考えています。

「AIエージェントを導入したものの、継続的な改善の進め方に悩んでいる」「社内の知識を複数のAIエージェントから活用したい」「ベンダーに頼るだけでなく、自社でもAIエージェントを育てていける体制を作りたい」。

そのような課題をお持ちのお客様は、ぜひ電通総研にご相談ください。

AIエージェントを導入して終わりにするのではなく、企業の知識とともに育て続けられる仕組みを、一緒に作っていければと思います。

筆者
AITC センター長
深谷 勇次