生成AIは「検索」から「照合・判断」へ

生成AIの企業活用は、社内情報の検索や文章の要約から、複数の情報を照合し、人の判断を支援する段階へと広がり始めています。
本記事では、経理・製造・品質などに共通する「照合業務」を例に、生成AIやAIエージェントを実際の業務へ組み込む際の考え方をご紹介します。
生成AI活用は「検索」の次へ
AIエージェント時代に広がる業務AIの可能性
AITCコンサルティングGの久木宮です。
生成AIは、社内情報の検索や要約、資料作成など、さまざまな業務で使われるようになってきました。
一方、実際の業務を見ていると、人が行っている仕事は「情報を探す」だけではありません。
複数の資料を見比べる。
数字や内容が合っているか確認する。
不足している情報や矛盾を見つける。
過去事例や社内ルールを参照する。
そのうえで、「このまま進めてよいか」を判断する。
私は、生成AI活用の次のテーマの一つは、「検索」から「照合・判断」へ活用範囲を広げていくことだと考えています。
本記事では、企業のさまざまな業務に存在する「照合」という仕事を切り口に、生成AIやAIエージェントを実際の業務へどう組み込んでいけるのかを考えてみます。
企業には「照合する仕事」が数多く存在する
「照合」と聞くと、請求書と発注内容を突き合わせる経理業務を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、同じような仕事は企業のさまざまな部門に存在しています。
例えば経理では、発注内容と請求内容、金額、明細などを確認します。
製造・品質では、図面と製造条件、設計変更と工程、顧客要求と品質基準などを確認します。
調達では見積・契約・発注条件を比較し、法務では契約書と社内基準を確認します。
扱っている情報は違いますが、業務の流れとして見ると共通しています。
情報を集める
→ 比較する
→ 差分や矛盾を確認する
→ ルール・過去事例を確認する
→ 人が判断する
つまり「照合」は、特定の部門だけに存在する業務ではなく、企業のさまざまな領域に共通する業務パターンとして捉えることができます。

図1:企業に広がる「照合業務」
なぜ照合業務は自動化しづらかったのか
照合作業そのものは、新しいものではありません。
これまでもRPAやルールベースのシステム、データマッチングなどを使って、多くの照合作業が自動化されてきました。
それでも人による確認が残っている理由の一つが、実務では情報が完全一致しないことです。
例えば、同じ企業を指していても、
「株式会社ABC」
と
「ABC社」
では表記が異なります。
発注では1件でも、請求では複数の明細に分かれていることもあります。
製造業でも、同じ部品について図面、BOM、工程表、品質資料で異なる名称や管理単位が使われる場合があります。
さらに難しいのが、業務上の例外です。
「金額は違っているが、このケースでは問題ない」
「直接一致する情報はないが、過去の経緯から同じ案件と判断できる」
といったケースがあります。
つまり実務の照合では、単純な文字列や数値の一致だけではなく、意味、文脈、業務ルール、過去の経緯まで踏まえて判断する必要があります。
ここが、従来型の自動化だけでは対応しづらかった部分です。
生成AIによって「意味の照合」が扱いやすくなった
生成AIは、文章や情報の意味を踏まえて、情報同士の関係を捉えることができます。
例えば、
「この請求明細は、どの発注明細に対応している可能性が高いか」
「今回の設計変更によって、どの工程に影響が出る可能性があるか」
「この申請内容は、どの社内ルールに関係するか」
といった問いです。
これは、単純なキーワード検索や完全一致とは異なる使い方です。
一方で、ここで重要なのは、生成AIだけですべての照合や判断を行うわけではないという点です。
実際の業務では、
- 生成AI
- 検索
- 業務ルール
- 過去事例
- マスタデータ
- 社内ナレッジ
- 業務システム
などを組み合わせる必要があります。
重要なのは、「どのAIモデルを使うか」だけではありません。
業務として照合・判断できる仕組みを、生成AIの前後も含めてどう設計するかです。
照合AIは「生成AIに資料を渡すだけ」では作れない
例えば、請求書と発注情報を照合するとします。
単純に2つの資料を生成AIに渡せば終わるわけではありません。
まず、PDFやExcel、業務システムから必要な情報を取り出します。
次に、多くのデータの中から比較対象となる候補を絞り込みます。
そのうえで、意味や文脈を踏まえて情報同士の対応関係を確認し、必要に応じて社内ルールや過去事例も参照します。
こうした処理は、大きく次のような流れで整理できます。
情報抽出・構造化
→ 候補探索
→ AIによる照合
→ ルール・ナレッジ確認
→ 判定
→ 人による確認
→ 判断結果の蓄積

図2:照合AIの共通アーキテクチャ
実際に難しいのは、生成AIそのものだけではありません。
「どの情報を使うのか」
「どの候補と比較するのか」
「どの条件ならAIに任せられるのか」
「どのケースを人に確認してもらうのか」
こうした業務プロセス全体の設計が重要になります。
目指すのは「100%自動化」ではなく、必要な案件に人の判断を集中させること
AI活用を検討すると、「何%自動化できるのか」という議論になりがちです。
もちろん、自動化率は重要です。
一方で、実際の企業業務には、AIが高い確度で処理できる案件もあれば、人の確認が必要な曖昧な案件や、明確な差異が見つかる案件もあります。
そこで、例えば照合結果を次のように分けます。
- 一致:AIが高い確度で自動照合できる案件
- 要確認:候補や理由をもとに、人が最終的な照合判断を行う案件
- 不一致:AIが検出した差異を人が確認し、対応を判断する案件
ここで重要なのは、「要確認」と「不一致」では、人が担う役割も異なることです。
要確認では、AIが提示した候補や根拠を見ながら「一致とみなしてよいか」を判断します。
一方、不一致では、「どこが違っているのか」を確認し、修正や差し戻しなど次の対応を判断します。
つまり、AIにすべてを任せるのではなく、AIが全件を一次レビューし、人は本当に判断や差異確認が必要な案件に集中するという考え方です。

図3:全件確認から「要確認だけ人が見る」業務へ
この役割分担によって、単に確認件数を減らすだけではなく、正確性や説明可能性、内部統制を保ちながら業務効率化を進めることができます。
「検索AI」から「照合・判断AI」へ
RAGを中心とした検索AIが主に答えるのは、
「必要な情報はどこにあるか」
という問いです。
一方、照合・判断AIが扱うのは、
「複数の情報を組み合わせたときに、何が言えるか」
という問いです。
例えば、
「この製品の仕様書を探して」
であれば、検索AIが得意です。
しかし、
「今回の仕様変更によって、どの工程や検査項目に影響が出る可能性があるか」
となると、検索だけでは足りません。
- 変更前後の内容を比較する。
- 関連する部品や工程を探す。
- 過去の類似事例を確認する。
- 関連するルールを確認する。
こうした複数の処理を組み合わせる必要があります。
生成AIの価値は、「情報を探せること」だけではありません。
複数の情報やルール、過去事例を組み合わせ、人が判断するための材料を整理できることにもあります。
AIエージェントで「判断の後」までつなげる
さらにAIエージェントを活用すると、照合結果を返すだけでなく、その後の業務までつなげられる可能性があります。
例えば、請求内容に差異が見つかった場合、
「差異があります」
と伝えるだけでなく、
「どこに差異があるのか」
「どのルールに該当するか」
「誰に確認すべきか」
「次にどの処理を行うべきか」
までつなげていく。
製造業であれば、設計変更を検出した後に、
- 影響する工程を調べる
- 関連する過去トラブルを探す
- レビューが必要な部門を特定する
- 担当者へ確認を依頼する
といった業務へ広げることができます。
つまり、
検索 → 照合 → 判断支援 → アクション
までを一つの業務として設計できるようになってきます。
AI導入の前に「人が何を判断しているか」を整理する
こうした照合・判断AIを作る際、AIモデルを選ぶ前に整理しておきたいことがあります。
それは、
現在、人が何を見て、何と何を比較し、何を基準に判断しているのか
です。
企業の業務では、
「この条件なら問題ない」
「このケースでは別部門への確認が必要」
「過去の類似案件では、この処理を行っていた」
といった判断が数多く存在します。
そして、そうした判断がすべてマニュアルに書かれているとは限りません。
そのため、
- 明確なルールとして実装するもの
- ナレッジとして参照するもの
- AIに推論させるもの
- 人に判断してもらうもの
を整理する必要があります。
さらに、人が行った判断をその場限りで終わらせず、次回以降に活用できる形で残していくことも重要です。
例えば、
「このケースは一致とみなす」
「この条件なら品質部門への確認が必要」
といった判断は、単なる作業結果ではなく、企業固有の判断知識です。
こうした判断を蓄積し、次回の検索や照合に活用できれば、AIはその企業の業務により適したものになっていきます。
人の判断を「使い捨て」にしない
もう一つ重要なのが、人が行った判断を次回に生かすことです。
例えば、AIでは判断できなかった案件を担当者が確認し、
「このケースは一致とみなす」
と判断したとします。
これは、単なる作業結果ではありません。
企業固有の判断知識です。
同じように、
「この条件なら品質部門への確認が必要」
「この程度の差異なら許容できる」
といった判断も、企業独自のナレッジになります。
こうした判断を蓄積し、次回の検索や照合に活用できるようになれば、AIはその企業の業務により合ったものになっていきます。
既に存在する文書を探すだけではなく、日々の業務で生まれる判断そのものを、組織のナレッジとして蓄積していく。
これも、これからの企業AIにおいて重要になる考え方だと思います。
まとめ:生成AI活用の主役は「モデル」から「業務」へ
生成AIの性能は、今後も向上していくでしょう。
しかし、企業でAIを活用するという観点では、モデルの性能だけでは十分ではありません。
重要なのは、
どの業務に使うのか。
人は何を基準に判断しているのか。
どの情報やルールを使うのか。
どこまでをAIに任せ、どこからを人が担うのか。
という業務全体の設計です。
これまで生成AIは、
「情報を探す」
「文章を作る」
といった用途が中心でした。
今後はさらに、
- 情報を比較する
- 差分や矛盾を見つける
- 判断材料を整理する
- 次のアクションにつなげる
といった領域へ広がっていくと考えています。
電通総研AITCでは、Know Narratorをはじめとしたナレッジ活用基盤やAIエージェント、AIコンサルティングを通じて、生成AIを実際の業務へ組み込む取り組みを進めています。
「生成AIを導入したが、検索や要約から先に進めていない」
「複数の資料を見比べて判断する業務が多く残っている」
「AIエージェントを実際の業務にどう組み込めばよいか分からない」
といった課題をお持ちであれば、一度、業務の中にある「照合・判断」という視点から整理してみると、新しいAI活用の可能性が見えてくるかもしれません。
執筆
AIトランスフォーメーションセンター コンサルティングG
久木宮 領

